本稿では、既往歴を秘匿し社会で暮らす退所者へ聞き取り調査をおこない、終の棲家についてどのような選択肢を考え、退所者であるがゆえのどのような苦悩を抱えているかを検討した。その結果、退所者の終の棲家の選択には、ハンセン病の既往歴を了解し、個人情報を厳守する一般医療機関の充実、後遺症のケアの充実など、医療との問題が大きく影響していることが明らかとなった。一方、最も助け合えるはずの退所者同士が敢えて互いに疎遠である状況も明らかとなった。この状況は、偏見や差別から自分も相手も守り、社会で生きるためのやむを得ない自己防衛とも考えられるが、それ故に情報が得にくい状況にあった。社会のハンセン病への関心は薄れているが、退所者のスティグマは内面化され、病と疎外の問題は解決されていない。支援する側は、多様な生活を営み、多様な意見を持つ人々を「退所者」としてカテゴリー化し、保護的な立場で対応しがちであるが、夫々の退所者の想いを尊重した支援が喫緊の課題である。