生命倫理
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報告論文
医学的無益性と障害新生児
森 禎徳
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2016 年 26 巻 1 号 p. 81-89

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抄録

    本稿は、「無益な治療」ないし「医学的無益性」が障害新生児に対する治療差し控え・停止の正当化根拠たりうるか否かを検討する。まず、医学的無益性の定義のうち、「生理学的無益性」のみが客観的な指標たりうることを指摘したうえで、無益な治療を医師に要求する権利は患者にはない、という主張の正当性を検証する。そして「医学的無益性」と「規範的無益性」との関係、さらに費用対効果の観点を導入することの是非を検討しつつ、以下の論点を提示する。
    (1) 障害新生児に対する治療差し控え・停止は患児の死に直結するため、その決定に際しては「生命の価値」という問題に踏み込まざるを得ない。(2) 生命の価値は医学的ではなく規範的な問いであるため、医学的無益性に基づいて判断を下すことはできない。(3) 親が医学的にも規範的にも無益だと認めないかぎり、障害新生児の治療を受ける権利は否定できない。(4) 費用対効果の評価に基づき治療差し控え・停止を決定することは、生命権の侵害に当たる可能性がある。
    それゆえ、医学的無益性は障害新生児に対する治療差し控え・停止の倫理的に正当な根拠とは認めがたい。

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2016 日本生命倫理学会
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