「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」は、基本方針の一つとして「社会的に弱い立場にある者への特別な配慮」を掲げている。「社会的に弱い立場にある者」とは誰か、「特別な配慮」とは何であるべきかといった論点を中心に、この基本方針には学術的検討が必要である。研究倫理学では、「脆弱性」及び「弱者集団」をめぐってここ20年ほど活発な論争が展開されてきたが、国内の指針はその成果を部分的にしか取り込んでおらず、結果として脆弱な被験者の保護に関する課題を残している。そこで本稿では、日本の研究倫理改善に向けた示唆を得ることを目的に、脆弱性概念をめぐる論争の文脈と前提を示した上で3つの主要なアプローチを検討する。検討結果を踏まえて日本の状況を確認し、脆弱性への配慮の基本的な考え方に関する文書によって倫理指針を補完する必要があることを示すとともに、その文書が分析的アプローチに基づくべきであることを主張する。