生命倫理
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30 巻, 1 号
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目次
巻頭言
依頼論文
  • 加藤 和人
    原稿種別: 依頼論文
    2020 年 30 巻 1 号 p. 4-14
    発行日: 2020/09/26
    公開日: 2021/08/01
    ジャーナル フリー

     遺伝子を簡便に効率よく改変できるゲノム編集は、基礎から応用まで医学・生命科学の基盤的技術となっている。ヒト胚にゲノム編集を施した基礎研究の論文が発表された2015年から、技術の人間への利用方法、特に世代を越えた遺伝子改変の是非が、世界中で議論になってきた。本稿では、この期間の出来事を多様なステークホルダーに注目して振り返り、見えてくる課題と今後への示唆を検討した。科学研究コミュニティはグローバルな議論の活性化に重要な役割を果たした一方で、中国の研究者によるゲノム編集を施した双子誕生のような非倫理的な行為の防止には、科学研究コミュニティの自主規制では限界があることが明らかになった。 今後は、医学や生命科学以外の専門家、市民、患者などを含む多様な分野の人々が参加し、分野横断的な世界規模の議論を行うことがこれまで以上に重要となる。生命倫理学やELSI研究の専門家は議論を活性化する役割を果たすことが期待される。

  • 門岡 康弘
    原稿種別: 依頼論文
    2020 年 30 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2020/09/26
    公開日: 2021/08/01
    ジャーナル フリー

     昨年の第31回日本生命倫理学会年次大会では、内閣府共催企画となる市民公開講座「ヒト胚のゲノム編集技術をめぐる市民との対話」が開催された。筆者は専門家と市民の橋渡し役として、ゲノム編集の展開と関連する論点を三つに区分し意見を述べた。まず、個体が発生しない「基礎医学/前臨床研究」のフェーズでは主な当事者は研究関係者となる。健全かつ公正な研究の実施と編集の精度や安全性の解明と評価が主な課題となるだろう。その次の到来が予想される「臨床研究/臨床医療」のフェーズでは、ゲノム編集を受けたヒト胚は実際に生を享ける。われわれは被験者保護そして公正な医療の実現に努力すべきである。また、ヒト胚の道徳的地位ついて再考を求められるかもしれない。そして三番目は「医療をこえた利用」のフェーズである。多数のデザイナー・ベビーの誕生は人間関係、生き方や社会構造に大規模そして複雑に影響するだろう。編集技術の受容と普及のために、多領域が連帯して対処していく必要がある。

原著論文
  • -境界例/普通精神病という観点から-
    水野 礼
    原稿種別: 原著論文
    2020 年 30 巻 1 号 p. 22-29
    発行日: 2020/09/26
    公開日: 2021/08/01
    ジャーナル フリー

     本稿では、医の安全という観点からDSM-5における女性性機能不全のうち「性器-骨盤痛・挿入障害」に対し、現在、本邦の婦人科医療で主流の治療法にみられる倫理的問題点を取り上げる。 DSM-5において当障害の診断は、一応のところ性関連以外の精神疾患や、他のストレス因などの作用が除かれてなされるものとされている。しかし現在、当障害が主として診られている婦人科医療の現場では、性関連以外の精神疾患における微細な兆候や、他のストレス因が見落とされている可能性が存在し、それがさらなる病状悪化や二次障害を招いている可能性が危惧される。 このことから、ここでは当障害を、精神分析における本来的な意味合いでの境界例/ラカン派の普通精神病 という概念からとらえなおし、性にまつわる症状を持つ人々に対し、主に用いられている〈婦人科的行動療法〉 に偏った形で治療を進めることの危険性と、より安全に治療をすすめるための対案を提起する。

報告論文
  • 伊藤 暢章, 正村 哲也
    原稿種別: 報告論文
    2020 年 30 巻 1 号 p. 30-39
    発行日: 2020/09/26
    公開日: 2021/08/01
    ジャーナル フリー

     本稿は,法律家の立場から輸血拒否患者に対する診療拒否の問題点を提起するものである。無断輸血訴訟最高裁判決( 2000年) 以降,患者の意思尊重とは逆行するケースがあることが懸念される。いわゆる相対的無輸血の方針の名の下に,輸血同意書への署名がなければ,輸血拒否患者の診療自体を一律に避ける病院がある。こうした対応は,患者の自己決定権を侵害する上,医師法の根拠たる憲法25条の生存権保障の趣旨に反し,応招義務違反となる可能性が高い。令和元年12月25日付で発出された厚生労働省通知の指針からすれば,診療時間内に病状の深刻な輸血拒否患者から診療を求められた場合に診療拒否が正当化されるのは,事実上診療が不可能といえる場合に限られる。医師は診療を拒否する代わりにどのような対応をすべきか,併せて提言する。

  • -宮崎大学医学部附属病院臨床倫理部のクリニカルインディケータをもとに-
    三浦 由佳里, 板井 孝壱郎, 綾部 貴典
    原稿種別: 報告論文
    2020 年 30 巻 1 号 p. 40-49
    発行日: 2020/09/26
    公開日: 2021/08/01
    ジャーナル フリー

     本稿では、過去6 年間、当院で取り扱った臨床倫理コンサルテーション事例437件について、質的研究方法であるSCATの手法を参考に4ステップコーディングを行い、複数の事例に共通して現れたテーマ・構成概念に着目して、それらを「キーターム」と定義した。 その結果、「適応外医療207件」、「未承認薬の使用33件」、「治療方針の対立32件」、「身寄りのない患者の対応14件」、「治療の差し控え11件」、「医師へのメンタルサポート10件」、「治療の中止9件」、「家族への支援7件」、「個人情報の保護6件」、以上9項目のキータームが抽出された。病院機能評価機構解説集「評価の考え方」に基づいて作成された「7分類」が、倫理的問題に遭遇するであろうと想定された外形的な「場面」を設定している一方で、今回の「9つのキーターム」は、医療者の内面的なジレンマの一端を示していると考えられた。

  • 松井 健志, 高井 寛, 柳橋 晃
    原稿種別: 報告論文
    2020 年 30 巻 1 号 p. 50-57
    発行日: 2020/09/26
    公開日: 2021/08/01
    ジャーナル フリー

     近年、臨床研究における研究倫理審査の受審・承認に関する虚偽記載をめぐる問題事案が国内外において少なからず散見されるようになってきている。しかし、報告される事案の数自体が少ないことに加えて、主たる「研究活動の不正行為」とされる捏造、改竄、盗用の陰に隠されてきたことから、本問題の倫理的な深刻さや何がそもそも問題であるかということについて、研究公正を含む研究倫理学の中でもほとんど検討されていない。そこで本論では、過去十年余りの間に国際的及び国内的に問題となった、研究倫理審査の受審・承認に関する虚偽記載が確認されたいくつかの臨床研究事案を取り上げつつ、本問題について研究倫理学的観点から考察した。

  • -被験者の視点から見えてきたこと-
    高井 寛, 松井 健志
    原稿種別: 報告論文
    2020 年 30 巻 1 号 p. 58-66
    発行日: 2020/09/26
    公開日: 2021/08/01
    ジャーナル フリー

     本研究では、ある臨床研究に参加した際の被験者としての経験に基づいて、そこで見えてきた臨床試験に係 る倫理的な問題を、研究倫理の専門家として反省的に議論する。当該試験に潜む問題は、(1)見過ごされてきた被験者への危害、(2)治療との誤解、(3)不公正な負担の分配、(4)研究倫理委員会の不透明さである。 (1)被験者は、副作用という分かりやすい危害のみならず、ウォッシュアウト期間も含めて、試験期間中は標準的な治療的ケアから遠ざけられるという危害を被る。(2)当該試験には、治験担当医師や被験者に「治療との誤解」を生みだす環境的要因が存在していた。(3)当該試験に際して、被験者は来院ごとに経済的な負担を負い、また研究主体は倫理的に適当でないように見える仕方で健康保険制度を利用した。(4)当該試験を審査した研究倫理委員会の議事録の概要には、「適否を審査した」とだけしか書かれていない。現在の臨床試験に係るこういった問題を、この論文では議論する。

  • 金田 浩由紀
    原稿種別: 報告論文
    2020 年 30 巻 1 号 p. 67-77
    発行日: 2020/09/26
    公開日: 2021/08/01
    ジャーナル フリー

     臨床倫理コンサルテーションは、医療現場で生じた患者個別の倫理的問題に対して助言や支援を行う仕組みである。病院内の中央組織として近年徐々に設置されつつあるが、実際の活動が各施設でどのように行われているのか、どのような問題に対応しているのかについての報告は少ない。本報告では、まず当院での臨床倫理コンサルテーションの活動内容について、2016年8月から2019年5月までの74件の依頼の詳細を示した。次に、少ないながらも報告された国内施設での活動内容をまとめた。最後に臨床倫理コンサルテーションの活動を持続させるために必要な取り得る対応を考察した。日本医療機能評価機構が行っている病院機能評価の受審を契機に臨床倫理コンサルテーションを開始した施設は多いが、その活動を持続させることは現状では経済的に困難である。臨床倫理コンサルテーションの活動を持続させるために、診療報酬を付けることを提案したい。

  • 川﨑 唯史, 大北 全俊, 佐藤 靜, 松井 健志
    原稿種別: 報告論文
    2020 年 30 巻 1 号 p. 78-85
    発行日: 2020/09/26
    公開日: 2021/08/01
    ジャーナル フリー

     「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」は、基本方針の一つとして「社会的に弱い立場にある者への特別な配慮」を掲げている。「社会的に弱い立場にある者」とは誰か、「特別な配慮」とは何であるべきかといった論点を中心に、この基本方針には学術的検討が必要である。研究倫理学では、「脆弱性」及び「弱者集団」をめぐってここ20年ほど活発な論争が展開されてきたが、国内の指針はその成果を部分的にしか取り込んでおらず、結果として脆弱な被験者の保護に関する課題を残している。そこで本稿では、日本の研究倫理改善に向けた示唆を得ることを目的に、脆弱性概念をめぐる論争の文脈と前提を示した上で3つの主要なアプローチを検討する。検討結果を踏まえて日本の状況を確認し、脆弱性への配慮の基本的な考え方に関する文書によって倫理指針を補完する必要があることを示すとともに、その文書が分析的アプローチに基づくべきであることを主張する。

第31回日本生命倫理学会年次大会プログラム
著作権規定と投稿規定
編集後記
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