生命倫理
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原著論文
COVID-19パンデミックとマキシミン・ルール
-拡大トリアージモデルによる思考実験-
徳永 純
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2022 年 32 巻 1 号 p. 21-29

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抄録

 COVID-19のパンデミックは、トリアージが差別に当たるかどうかという論争を引き起こした。救命措置の優先順位を決めるトリアージの理論は、帰結主義の立場から、高齢者や基礎疾患のある弱者を差別する含意なしに、救命可能性が高い患者を優先する結論を導く。ただ、既存の理論はパンデミック下における医療資源の可変性を考慮しないため、感染対策の不徹底が生む差別を隠蔽しかねない。本稿では、軽症者から重症者までの医療体制を見渡し、その整備に要する時間も考慮したトリアージについて理論モデルの構築を試みる。それにより救命数最大化を地域レベルで徹底すると、軽症から中等症については、重症化リスクの高い弱者を優先するマキシミン・ルールに基づく医療資源の拡充こそが最重要の倫理的要請であることがわかる。帰結主義の枠内で思考実験を行い、論争の着地点を探る。

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2022 日本生命倫理学会
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