第二次大戦後、ニュルンベルク綱領、ベルモント・レポート、45CFR46等の医学研究における被験者保護のための原則や規制が成立した。それらの原則や規制は、子どもをはじめとする社会的弱者を特別に保護すべきとしたが、そのような弱者を研究から遠ざける結果を招いた。これに加えて、製薬企業も、利益が見込めない小児医薬品の開発に消極的であった。そのため、小児医薬品の安全性と有効性に関するデータは今もって十分でなく、その大半が未だにオフ・ラベルで使用されており、医療制度の中での小児医療の立場は不安定なものとなっている。この状況を改善するためには、子どもが医学研究に登録される機会を確保する必要がある。 D. ヴェンドラーは、「最小限のリスク」と利益を捉え直すことで、子どもを対象とする医学研究の倫理的正当化を試みている。本論では、ヴェンドラーの議論の成否、及び、適用可能性について検討する。