生命倫理
Online ISSN : 2189-695X
Print ISSN : 1343-4063
ISSN-L : 1343-4063
報告論文
ワクチン開発における人感染チャレンジ試験の倫理
-コロナ禍以前の国際的議論を読み解く-
松井 健志山本 圭一郎Kenji MATSUIKeiichiro YAMAMOTO
著者情報
ジャーナル フリー

2025 年 35 巻 1 号 p. 23-33

詳細
抄録

 将来のパンデミック等の発生に向けた迅速なワクチン開発体制の整備に向けた議論が国内でも進む中、その戦略の一つとして「人感染チャレンジ試験(HCT)」が注目されている。ワクチン開発におけるHCTは、開発途上のワクチン候補を被験者に接種した上で、病原体に感染させてワクチン候補の効果を検証する試験であり、通常の臨床試験にはないワクチン開発上の利点を有しているとされる。日本での実施体制は整っていないものの、海外では一定の実施経験が積まれてきており、2019年末に始まる今回のSARS-CoV-2によるコロナ禍においても、英国で2つのHCTが実行された。一方で、HCTは意図的な感染実験かつ一般にリスクの高い研究とされており、当時の米国では倫理的正当化が困難である等を理由に実行が見送られた。本論では、日本でもその実施体制の整備に向けた検討が始まっているHCTについて、今回のコロナ禍以前より蓄積されたHCTを巡る国際的議論を俯瞰・整理して、今コロナ禍を境としてHCTの今後の在り方を考える上で注意すべき倫理的課題を浮き彫りにすることを試みた。この試みからは、今コロナ禍以前におけるHCTを巡る倫理的議論の殆どは、今コロナ禍でのような、確立した治療法も無く、非常にリスクと不確実性が高い病原体におけるHCTの検討にはあまり有効ではなく、従ってまた、今コロナ禍以前の議論だけに基づいて今後のHCTの在り方について判断していくことの危険性が明らかとなった。

著者関連情報
日本生命倫理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top