2022 年 31 巻 1 号 p. 12-18
本研究は,息子の分離困難と不登校を主訴とする母親の事例を提示し,ナラティヴ・セラピーの視座から検討したものである。不登校の「分離不安説」は,ひとつの「専門的知識」として古くからわが国の教育関係者,家族らに根強い影響力を持つ「ドミナント・ストーリー」と考えられた。事例では,偶発的なものを含んだいくつかのきっかけから,そのドミナント・ストーリーから離れた新たなストーリーが見出されていった。本稿ではその過程を描き出しながら,ナラティヴ・セラピーを用いた臨床実践のあり方について考察した。