日本クリティカルケア看護学会誌
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研究報告
急性期の頸髄損傷患者の体験と生きようとする力に影響を及ぼす看護ケア
日坂 ゆかり
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2010 年 6 巻 3 号 p. 46-54

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抄録

本研究の目的は,急性期の頸髄損傷患者の体験と,どのようなことで生きようとする力が引き出されあるいはその反対に失われていくのか,生きようとする力に看護ケアがいかに影響しているのかを明らかにすることである.
研究参加者は,不慮の事故により受傷し救急部に搬送されて頸髄損傷と診断された5名である.研究者が研究参加者の看護ケアに携わりながら言動と提供した看護ケアを記憶し,記述してデータを得るプロスペクティブな質的記述的研究とした.また,看護ケアの効果を含む,患者の生きようとする力が引き出されることに影響を与える要因を明らかにする因子探索型研究でもある.
研究参加者の体験では,医療者から不治の告知がされなくても受傷後数日で患者は自分の身体は治らないかもしれないと思い始め,またその時期に5名中4名が死をも考えていたことを口にしていた.生きようとする力を失わせていることには,治らないかもしれないと考えることと,痛み,不眠,安静,および吸引などの苦痛があった.生きようとする力を強めていることは,「普段の生活に近づく」こと,「視界が広がる」こと,「自分でできることが拡大する」こと,「苦痛が軽減する」こと,「家族や看護師の生きようとしてほしいとの思いを感じる」ことが見出された.
頸髄損傷患者は,受傷後早い段階で動けなくなる不安と身体的苦痛から絶望し,死にたいと考えるが,その絶望感から立ち直る強さを持っていた.看護ケアは,患者の苦痛を強くし生きようとする力を奪っている場合もあるが,それ以上に患者の生きようとする力を支えることに深く関わっていた.

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© 2010 日本クリティカルケア看護学会
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