2021 年 41 巻 1-2 号 p. 98-105
本症例(初診時68 歳,女性)は,不適合な義歯による咀嚼障害を起こしていたため,両側臼歯欠損部に対してインプラントオーバーデンチャーを用いて,口腔機能の回復を図った症例である.多数歯の欠損を有する口腔内においては,適切な顎位の獲得を与え,それを保持するための咬合位を構築する必要がある.そのための手段として,残存歯の位置異常の改善を目的とした歯列矯正治療が必要な場合もあり,また欠損部に対しては堅固な咬合支持を得るためにインプラント補綴が第一選択肢とされている.しかし,患者の希望や経済的背景を考慮したとき,理想的な治療を行えることは少ない.特に部分的にインプラント補綴がされている欠損を有する口腔内の欠損補綴治療は,補綴装置の選択と補綴設計に苦慮する.そこで今回は,両側臼歯部欠損を有する下顎歯列に,部分床義歯装置による欠損補綴治療として,既存のインプラントを利用したインプラントオーバーデンチャー(IARPD; Implant Assisted Removable Partial Denture) にて口腔機能回復を図り,良好な結果が得られた.