日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学
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41 巻, 1-2 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
総説
  • がん,疼痛,ドライマウス,う蝕,歯周病まで
    井上 健児, 田口 洋一郎, 山野 精一
    原稿種別: 総説
    2021 年41 巻1-2 号 p. 11-20
    発行日: 2021/06/16
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

    遺伝子治療は,遺伝性疾患の根本的治療法として誕生し,欠陥遺伝子を補う治療法であったが,今日では,①正常遺伝子の補充,②遺伝子発現の抑制,③異常遺伝子の修復を基本コンセプトに,多様な臨床応用が検討されている.近年では,口腔顎顔面疾患領域にも応用が考えられ,研究が進められている.筆者らも,口腔がんによる疼痛や自己免疫疾患のひとつであるシェーグレン症候群によるドライマスを対象とした遺伝子治療の研究を行ってきた. さらに,一般歯科医師でも日常診るう蝕や歯周病への応用も期待されている.

  • ハビリテーションの観点から咬合を診る
    一瀬 智生
    原稿種別: 総説
    2021 年41 巻1-2 号 p. 21-31
    発行日: 2021/06/16
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

    歯科の基本である咬合は,顎位,口腔機能,形態の要求を満たすものであることが求められる.局所のみにとらわれることなく,バランスを考慮しながら対処するが,小児歯科では歯列育成が主目的となる.主眼は,良好な発育成長を阻害する因子を除去する予防的処置により,修正や適応の道筋を立てることに注がれる.初期段階に発見された異常が放置され続けると,修正が困難になることがあるが,早期診断・治療によって重症化を回避できるケースは多い.逆被蓋・偏位咬合・埋伏歯は早期対応が推奨され,口腔習癖の改善も重要である.遺伝によって決められている成長発育から,多少外れたとしても,形態だけを見て異常だ,正常だと単純に分けることはできず,将来を予測してタイミングよく対応する.それによって,発育が機能によって促され,姿勢は適切な持続的外力として作用するようになる.小児の個体差に合わせた対応も求められる.小児においては,対症療法で補うのみではなく,原因究明とその予防手段を講じるハビリテーションが重要である.

原著
  • 大上 啓輔, 坂本 耕造, 水船 展克, 高橋 桂二, 林 幹典
    原稿種別: 原著
    2021 年41 巻1-2 号 p. 32-39
    発行日: 2021/06/16
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症は世界各国で猛威を振っている.今回,我々は,歯科医院で発生したクラスター発生後に周辺地域の歯科診療所が受けた影響について調査するため,歯科医師会会員に対してアンケートを実施した.結果,この事例による地域住民への心理的影響は大きく,感染に対する不安や誤情報の拡散によって,歯科受診の敬遠や,歯科医療従事者に対する差別感情が生じていた可能性が示唆された.また,医療物資の不足などの原因で各診療所が十分な感染予防対策を実施しにくい状況にあることが憂慮された.患者が健康でいられるような口腔内環境を維持すべく,我々歯科医療従事者は,今後,新型コロナウイルス感染症に対する正しい情報を発信し,これとともに安心・安全な治療を提供できる医療環境の整備を行う必要があることを認識した.

  • 細野 隆也, 小山 翔太郎
    原稿種別: 原著
    2021 年41 巻1-2 号 p. 56-61
    発行日: 2021/06/16
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

    簡便に口腔内のミュータンスレンサ球菌群(mutans streptococci:以下MS)を測定する方法として光学式う蝕検出装置(以下DIAGNOdent)の有効性を評価した. DIAGNOdent はKaVo Dental 社により開発され,レーザー光を用いたう蝕検出装置として販売されたものである.実際に使用すると,レーザー光により励起された反射光は健全歯質からも生じ,食後ブラッシング実施の確実性によって反応が変化する.このことから筆者らは,この波長がMS を含むプラークバイオフィルムに関係した反応ではないかと考えた.患者口腔内の全歯面にDIAGNOdent を接触照射しその反応を評価する一方で,MS の培養測定をOralCare 社のDentocult® SM を用い行った.この測定値とDIAGNOdent の測定値の相関関係を調べることで,MS 測定におけるDIAGNOdent 活用の可能性を検討した.結果は歯垢のDentocult® SM 値が陽性であった37 人のうち22 人がDIAGNOdent 値も陽性で,Dentocult® SM 値が陰性であった29 人のうち25 人が DIAGNOdent 値も陰性だった.また唾液のDentocult® SM 値が陽性であった31 人のうち21 人がDIAGNOdent 値も 陽性で,Dentocult® SM 値が陰性であった23 人のうち17 人がDIAGNOdent 値も陰性だった.DIAGNOdent の反応と Dentocult® SM の値には有意な相関があり,DIAGNOdent が口腔内MS の簡便なスクリーニング検出器として有用であ ることが示唆された.こうした本機器の活用がう蝕の原因へ眼を向けた日常臨床の助けとなることを期待する.

症例報告
  • 島田 卓也
    原稿種別: 症例報告
    2021 年41 巻1-2 号 p. 62-67
    発行日: 2021/06/16
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

    症例の概要:上顎前歯部の審美修復を行うに際し,左右で異なった補綴材料にて修復処置を行うことは良く経験するが,左右の色調を合わすことが困難なことも少なくない.今回,明度に焦点をあてた色調再現が可能なセメントを使用し,審美的な修復を行った症例を報告する.治療方針:患者は59 歳,女性,1 の硬質レジン前装冠脱離で来院した.患者に説明と同意を得た結果,1 は抜歯後インプラントを埋入しオールセラミッククラウン,1 はポーセレンラミネートベニアを装着することとした.治療経過:左右の歯頸線を合わせやすくするために1 の矯正的挺出を行った後,抜歯即時にてインプラントの埋入を行った.インプラントの骨結合を確認後,1 および1 の診断用ワックスアップから同部位のプロビジョナルレストレーションを作成し,フロアブルレジンテクニックを用いてポーセレンラミネートベニアの形成を行った.形成後にはチェアーサイドSEM 観察システムによりエナメル質の残存状態を確認し,歯科用レジンセメントにて接着した.考察と結論:診断用ワックスアップを付加的に製作することにより形成量を少なくすることが可能となるためエナメル質を多く残存でき,ポーセレンラミネートベニアの長期接着が期待できた.オールセラミッククラウンの色調は支台歯や接着材料の色調にも影響される.ポーセレンラミネートベニアは厚みがさらに薄くなることからセメント色の影響をより大きく受けることが考えられる.明度は色調に影響することから,明度で調整の可能なセメントが有用であると考える.今回使用したセメントは,明度の異なる3 色から選択するシンプルなシステムで簡便に色調を合わすことが可能であった.

  • 森 克栄
    原稿種別: 症例報告
    2021 年41 巻1-2 号 p. 74-79
    発行日: 2021/06/16
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

    損傷を受けた生活歯髄に対してRest treatment(安静下での経過観察)を行い,その経過を注意深く観察して治癒に至った症例,①慢性歯髄炎の歯髄保存療法24 年経過症例(初診時12 歳,男児),②咀嚼時疼痛に対するRest treatment(初診時33 歳,女性),③深在性う蝕で慢性歯髄炎が疑われた下顎大臼歯の歯髄保存療法(初診時23 歳, 男性)を示した.初期の歯髄炎に対する基本的治療は,生活歯髄の保存療法であるが,その条件となる歯髄診断は白か黒かを容易に判断できるものではない.これは歯髄組織が生活力の旺盛な可逆性の組織であるためである.このためRest treatment と慎重な経過観察が,損傷を受けた歯髄の初期治療であり,それにより保存の可否を判定するべきである.精密あるいは効率的な根管治療に注目が集まっているが,歯内療法の基本が歯髄の保存療法にあり,その前提としてRest treatment が重要であることに改めて注意を喚起したい.

  • 山地 正樹, 山地 良子
    原稿種別: 症例報告
    2021 年41 巻1-2 号 p. 80-90
    発行日: 2021/06/16
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

    広汎型重度慢性歯周炎を有する患者に,咀嚼機能を評価しながら,歯周治療,矯正治療,咬合治療などを併用した歯周矯正治療症例を報告する.本症例は,広汎型重度歯周炎やくいしばりにより2 1 の歯間離開と1 の突出が著しく,2 2が上顎の歯肉を嚙んでいた.全顎的に中程度から重度の歯槽骨吸収像を示し,歯列が近心傾斜して,歯肉の腫脹,出血や歯の動揺が認められた.咀嚼運動所見では咀嚼サイクルが約1 秒と非常に遅く,顎関節雑音,口がまっすぐ開かない等の顎関節症状を呈していた.その他,頭痛,難聴,肩こりなどの種々の不定愁訴も認められた.このような複雑な症例を呈する症例に歯周矯正治療により不正な歯列と咬合を再構築し,かつ良好な咀嚼を与え,クラウンブリッジによる咬合再構成を行った.本症例は初診時より14 年経過しており,歯周組織の再生が確認でき,顎関節と調和しながら,咬合,機能,審美が回復し,良好な経過が認められた.

  • 2 歯の歯根破折に対して,智歯を分割後に2 部位同時に自家歯牙移植術を実施した1 症例
    山内 真人
    原稿種別: 症例報告
    2021 年41 巻1-2 号 p. 91-97
    発行日: 2021/06/16
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

    患者は初診時56 歳,女性で,上顎右側小臼歯の疼痛を主訴に受診した.5 7 に歯根縦破折を認め,保存困難と診断した.患者には下顎右側に2 根性の8 を認めた.コーンビームCT による分析により,8 を歯根分割して移植術を行った場合,5 7 の抜歯窩(移植床)に歯根形態が適合することが判明した.そこで,2 歯喪失部位に,2 根性の8 の歯根を分割して2 部位同時の移植術を実施した.術後4 年以上良好に経過する.移植術によって,移植歯の正常な生着と移植床周囲の骨欠損部を含めた機能回復が得られたと考えている.

  • 田中 智子
    原稿種別: 症例報告
    2021 年41 巻1-2 号 p. 98-105
    発行日: 2021/06/16
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル フリー

    本症例(初診時68 歳,女性)は,不適合な義歯による咀嚼障害を起こしていたため,両側臼歯欠損部に対してインプラントオーバーデンチャーを用いて,口腔機能の回復を図った症例である.多数歯の欠損を有する口腔内においては,適切な顎位の獲得を与え,それを保持するための咬合位を構築する必要がある.そのための手段として,残存歯の位置異常の改善を目的とした歯列矯正治療が必要な場合もあり,また欠損部に対しては堅固な咬合支持を得るためにインプラント補綴が第一選択肢とされている.しかし,患者の希望や経済的背景を考慮したとき,理想的な治療を行えることは少ない.特に部分的にインプラント補綴がされている欠損を有する口腔内の欠損補綴治療は,補綴装置の選択と補綴設計に苦慮する.そこで今回は,両側臼歯部欠損を有する下顎歯列に,部分床義歯装置による欠損補綴治療として,既存のインプラントを利用したインプラントオーバーデンチャー(IARPD; Implant Assisted Removable Partial Denture) にて口腔機能回復を図り,良好な結果が得られた.

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