抄録
咬合診査を行う際の中心位(Centric Relation 以下CR)の採得には歴史的な背景から様々な変遷を繰り返してきたが,その確固たる形式は未だに定まっていないのが現状と思われる.またその方法にはいくつもの種類があり,採得方法がどのような状態や条件を伴った記録となって診断に反映するのかが未だ統一されてはいない.そのためにどうしても術者主体の見解となってしまうことも多いために患者側の理解や協力も得られにくく一方的な治療になってしまうことが危惧される.咬合の問題は精神的な影響や生活習慣など様々な障害因子を持っていることが報告され全身にも波及することが言われている.また患者の状況や理解度によっても治療方針が大きく左右されるために幅広い見解をもって細やかな情報収集が必要である.そのためには咬合診査を簡略化して日常的に行うことができるようにして問題点を抽出していきながら必要に応じて精密検査へと移行していくことが望ましいと考える.そして,顕在的なものだけでなく潜在的にも障害となる要因をクローズアップしていく中で患者の理解を段階的に引き上げ咬合との因果関係を体験的にも確認しながら進めていくことが大切である.その意味で私たちが日常行っている咬合診査をもっと多方面から検証していくことが必要となってくる.今回は当院で行っている咬合診査を下顎位の咬合採得を多種類の方法から併用して行うことでその意義や目的が異なることが分かってきたので報告する.