抄録
本研究は,福岡市の特別養護老人ホームにおいて実施された,多職種連携による口腔健康管理の取り組みについて報告するものである.本取り組みは,入所者個々の誤嚥性肺炎リスクに基づいた個別的口腔ケアの実践を通じ,誤嚥性肺炎の予防を目的として導入された.隣接する医療機関に所属する歯科医師および歯科衛生士と,施設の看護師・介護職員とが参加する「歯科連携会議」が月1 回開催され,介護職員による評価表に基づき,入所者ごとの支援計画について具体的な事実に基づくフィードバックと支援方法の調整が繰り返し行われた.評価項目は,①全身状態,②口腔状態,③食事摂取状況,④口腔ケア方法の4 つの領域から構成されており,これに基づいて歯科専門職が個別性に配慮した支援指導を実施した.介入は単に口腔衛生の維持にとどまらず,嚥下機能,食事行動,栄養摂取にも焦点を当てたものであった.口腔ケア支援を継続することで,誤嚥性肺炎の発症が減少しただけでなく,体重減少リスクも軽減された.さらに,入院件数および施設の空床率の有意な低下が確認された.特に,空床数の減少傾向は介入開始から約1 年半後に顕著となり,2 年目には2019 ~ 2022 年度同時期の平均と比較して,施設の空床が第2 四半期で75.5%,第3 四半期で66.2%,第4 四半期で33.3%減少した.本事例は,個別リスク評価に基づいた歯科専門職との多職種連携が,臨床的成果のみならず,施設運営面にも好影響をもたらす可能性を示唆している.