抄録
目的:無歯顎症例では下顎位が不安定になりやすく,下顎位を客観的に確認できるゴシックアーチ描記法が有効である.近年,現義歯をデジタルスキャナー(光学スキャナ―,歯科用コーンビームCTなど)でスキャンし,ミリングマシーンや3Dプリンターを用いてデジタル複製義歯を製作することができるようになった.適合性の高いデジタル複製義歯を用いてゴシックアーチ描記装置を製作したところ,従来法と比較して様々なメリットが得られたため報告する.症例:入れ歯が割れたことを主訴として来院した64 歳男性.5 年以上前に上下顎全部床義歯を製作して使用していた.約2 カ月前に下顎義歯が破損したため患者自身で接着剤で修理をして使用していたが,硬いものが噛めないため上下顎義歯を新製したいとの希望で当院を受診した.上下顎全部床義歯不適合による咀嚼障害と診断し,主訴改善のための応急処置として上下顎義歯を新製した.しかし,下顎義歯の安定が得られなかったためこれを治療用義歯として調整し,下顎義歯の安定が得られたのちに最終補綴治療を行った.最終補綴治療の過程で,調整が済んだ治療用義歯の3 次元形状を口腔内スキャナーを用いて採得し,そのデータをCAD ソフトで調整した後,3D プリンターで造形した複製義歯(デジタル複製義歯)を用いてゴシックアーチ描記装置を製作して使用した.結論:口腔内で安定している治療用義歯をスキャンして製作したデジタル複製義歯を用いることで,短期間かつ簡便に安定したゴシックアーチ描記装置を製作することができた.デジタル複製義歯を用いて製作したゴシックアーチ描記装置による診査は咬合床を用いた従来式と比較して有用性が高いと考えられる.