抄録
離島はその大小にかかわらず,独自の生活習慣,言語,思考態度をもち,それらを理解することは保健師活動の基本ではあるが,それは文化の違う環境に育った県外出身保健師にとっては困難な面がある.県外出身者である著者は既存の保健統計の分析を行い,保健活動を実践し始めるが保健指導が住民の感覚と一致しない不全感は拭えなかった.その原因は育ってきた文化に違いがあるからではないかと考えた.そこで地域を歴史的背景から考察し理解を深めるため,民族看護学研究の手法を参考に研究を行った.沖縄県M島の住民である役場職員4人より彼等が経験してきた事実を生活史として聴取し,その結果を「50歳代の生活史」として,生活習慣と食文化の変遷を示す年表にまとめ,島出身者を含む保健師間で検討を重ねた.この異文化を理解しようと努力する過程を踏まえることによって,島民の健康上好ましくない生活習慣・慣習の歴史的背景を理解することができるようになった.生活史の年表作成は,数量的なデータの把握のみでは捉えきれない住民の実生活に文化的側面からアプローチすることを可能とし,その地域へのより深い理解と思慮を促すことができた.このことは地域保健活動の実践の入り口として非常に有効であった.