抄録
目的:現代の子育て世代の女性たちは,身近で子育てをしている母親の姿を見たり,乳幼児と実際に接したりすることがないまま大人になることで,想像と現実の子育てに乖離を生じやすい.想像と現実の乖離が母親の感情にどのような影響をもたらしているのかを明らかにする.方法:生後10カ月の第1子をもつ母親15名を対象に半構造化面接を行った.結果・考察:母親は,子どもをもつことによって,自分の生活変化の程度やそれに伴う肉体的・精神的負担度が想像を超えていたことによって乖離を感知していた.母親になった時の自分の感情や,実際の子育ての営みの中で経験する負担度とそれに伴う感情を,他人の子どもとの短時間の接触によってイメージすることは困難であることが示された.母親が精神的余裕を喪失している場合には,夫の子育てには良い評価を付与しながらも,夫や子育てに対してはネガティブな感情を生起していることが示されており,夫への不満や子どもや子育てに対するネガティブな感情の生起は,母親の精神状態に影響を受けることが示唆された.母親は子育てにおける得失を比較することで,得たもののほうが大きいと感じており,母親の心中では子育てに対するポジティブな感情が優位を占めることが示唆された.