2009 年 49 巻 3 号 p. 91-106
本稿は,北海道えりも町えりも岬地区の事例から,漁村の経済,自然環境,社会の位相にみる持続可能性と,そこから生じる漁村の多面的機能について論じる。えりも岬地区は,在地の知恵をヒントに砂漠化した土地の緑化をすすめ,沿岸域の環境を向上させ,昆布をはじめ水産資源の漁獲高を飛躍的にのばした地域である。また,ゼニガタアザラシの天然記念物化に反発した漁師たちが,ゼニガタアザラシとの「共存」の方法を模索した地域である。えりも岬地区での漁村の持続可能性をめぐる経緯からみると,ここでの「漁村らしい」多面的機能として自然景観,環境教育,観光資源という3つの系に優位性があり,漁業が持つ漁獲高や市場価格の不安定さを補ってきた複合的な生業のあり方に着目すると,オプションとしてのエコ・ツーリズムの有効性がみえてくるが,実際には,エコ・ツーリズムはオプションたりえていない。具体的に見いだされた漁村の多面的機能を活性化するためには,漁業者の日常に定礎した産業連関的な施策をボトムアップで形成することと同時に,地域にみあった柔軟で協働的な施策を構想する必要があるだろう。