目的:本研究の目的は,乳幼児を育てている母親たちが「しつけ」「虐待」をどのようにとらえているのかについて,対話を通して明らかにすること,およびその過程で生じた親たちと研究者とのやりとりから,子育てにまつわる行為について親たちと対話する場面のつくり方について示唆を得ることである.
方法:中部地方にある都市の子育て支援センターにおいて,子育て中の母親を対象にほぼ月1回のグループディスカッションを約1年間行い,子どもへのしつけ,体罰,虐待についてのイメージ,考え方,経験等を聞いた.得られたデータを類似した内容ごとに整理し,ディスカッションでの参加者のようす等を含めて分析した.
結果:12回のセッションに57(延べ82)人の子育て中の母親が参加した.「しつけ」については,その目的,内容,方法に関するさまざまなとらえ方がだされた.「虐待」については,心理的虐待に関するものがイメージとして多くだされた.目的や理由,愛情があれば虐待ではなくしつけであるという考え方も示された.性的虐待やドメスティックバイオレンスに関する内容はでなかった.
考察:母親たちのしつけや虐待の認識には,親子や周囲の人との関係性や子どもの人権への意識が関連していた.対話を促進する工夫として,自分の言葉で自分のこととして語る機会,互いの相互作用が生まれやすい構成,応答し合う関係性と聞いてくれる人の存在があること,という示唆を得た.