日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
20 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
研究報告
  • 渡邉 路子, 平澤 則子, 飯吉 令枝
    2017 年 20 巻 3 号 p. 6-15
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,電気機械器具製造業に従事する労働者における睡眠の実態と関連する要因を明らかにし,産業看護職による睡眠への支援についての示唆を得ることである.

    方法:電気機械器具製造業A社社員645人を対象に質問紙調査を実施した.調査項目は,アテネ不眠尺度8項目版を用いた睡眠の自己評価,平均睡眠時間,睡眠時の環境,日常生活について,睡眠の認識とし,各項目と睡眠の自己評価,平均睡眠時間との関連について,相関係数の算出,χ2検定,多重ロジスティック回帰分析を行った.

    結果:睡眠の自己評価は,「心配なし」49.7%,「やや不眠症の疑い」23.6%,「不眠症の疑い」26.7%であった.平均睡眠時間は5時間49分であった.睡眠の自己評価と平均睡眠時間の間にはやや強い相関がみられた.χ2検定の結果では,「仕事上のストレス」「職場の人間関係の悩み」など40項目中13項目で有意な関連がみられた.さらに,睡眠の自己評価との間に有意な関連がみられた要因について多重ロジスティック回帰分析を行い,その結果,「同居者」「育児」「睡眠で疲労が回復する」「睡眠の知識を得たい」の4項目で有意な関連がみられた.

    結論:本研究の結果から,一定の睡眠時間の確保,職場の環境や生活背景などを踏まえた支援が必要であることが明らかになった.産業看護職は,労働者が良好な睡眠を維持しながら働き続けることができるよう,実態をとらえ,きめ細かい支援をしていくことが必要であると考えられる.

  • ―2011年4月~2015年3月までに発表された論文に焦点を当てて―
    草野 つぎ, 藤田 京子
    2017 年 20 巻 3 号 p. 16-25
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:震災後の福島県民の健康問題について,研究の動向を先行研究より明らかにし,ヘルスケア支援の示唆を得ることを目的とした.

    方法:医学中央雑誌Web版を使用し,2011年4月~2015年3月までに発表された論文で福島県民の健康に関する論文を抽出し28件の論文を分析の対象とした.調査対象者を「妊産婦」「乳幼児と保護者」「児童生徒」「成人」「高齢者」に分け,健康問題を,「身体的健康問題」「精神的健康問題」「社会的健康問題」に分け,知見を整理した.

    結果:福島県民の健康問題は,避難者の避難生活に伴ううつ状態などの精神的健康問題と,孤立などの社会的健康問題があった.県民のなかには,放射線健康不安から,精神的不調などが出現していた.

    考察:避難者は,生活環境や対人関係の変化から精神的健康問題が生じており,地域の実情に応じた個別支援が重要である.県民は,将来への内部被ばく不安を持ち続けている可能性があり,根拠に基づいたわかりやすい放射線健康情報の提供継続が重要である.なお,今後自治体等は,自然災害と原子力災害の備えをすることが重要である.

  • 澤谷 美奈, 佐伯 和子, 平野 美千代
    2017 年 20 巻 3 号 p. 26-34
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:家族の会に参加する若年認知症者の配偶者介護者は,地域を基盤とした人とのつながりをどのように受け止めているのかを明らかにすることを目的とした.

    方法:研究方法は質的研究方法であった.若年認知症者の配偶者介護者8人に対して,半構成的面接を実施し,人とのつながりについて自由に語ってもらった.データから逐語録を作成し,コード化,カテゴリー化を行った.

    結果:分析の結果,前提として2つ,人とのつながりで6つのカテゴリーが抽出された.若年認知症の配偶者介護者は,若年認知症の発症後,生活が一変するなかで,【「病気」になった配偶者の本人らしい生活の維持】のために生活を再構築し,これは人とのつながりの前提となっていた.家族の会での人とのつながりで【介護者としての自分の素直な感情の表出】ができることで,さらに【自分のために思うままに時間や空間を使っての楽しみ】や【介護者としての新たな役割や使命による社会とのつながり】へと人とのつながりが広がっていた.また,介護役割以外の人とのつながりに,【介護者役割以外での社会的役割の全う】を意識していた.

    考察:介護者にとって,家族の会の人とのつながりは数少ない介護者同士のつながりであり,共感や承認が得られることの重要性は高い.さらに,社会的役割があることは,社会から必要とされていると感じられるという意味をもつと考えられる.

  • 成田 太一, 小林 恵子
    2017 年 20 巻 3 号 p. 35-44
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:地域で生活する統合失調症患者のリカバリーの概念を分析し定義を明らかにするとともに,支援を行ううえでの概念の活用可能性と課題を検討することを目的とした.

    方法:地域で生活する統合失調症患者のリカバリーについて,具体的な記述のある国内外の研究論文を対象として検索を行った.分析方法は,Rodgersの概念分析の方法を用い,リカバリーの概念を構成する属性,概念に先立って生じる先行要件,概念に後続して生じる帰結を表す箇所を抽出し,内容の共通性と相違性に基づいて分類し,構成概念を整理した.

    結果:地域で生活する統合失調症患者のリカバリーの構成概念として【新たな目標や願望をみつけ,主体的に生活する】【自分自身を客観視し,肯定的なセルフイメージをもつ】【主体的に支援を活用し,病状が安定する】【地域社会で相互関係を築き承認される】の4つの属性と,8つの先行要件,4つの帰結が抽出された.

    考察:地域で生活する統合失調症患者のリカバリーの定義は,「統合失調症患者がQOLを向上させるために希望や目標に向かって支援を活用し,体調や服薬の主体的な管理により病状を安定させながら,地域社会のなかで相互関係を構築するプロセス」とした.リカバリーを基盤とした支援により,当事者中心のケアを展開する一助になると考えられ,当事者の思いを引き出す支援技術や,当事者の視点でリカバリープロセスに寄り添う支援が重要である.

資料
  • ―母性愛着および育児の自己効力感について成熟児との比較から―
    藤田 みどり, 西嶋 真理子
    2017 年 20 巻 3 号 p. 45-53
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:極低出生体重児の母親が,周囲から支持を得られていると感じることは,子どもへの愛着および育児の自己効力感に影響があるかを明らかにする.

    方法:6歳未満の極低出生体重児を養育する母親(以下,極低群)と正期産児の母親(以下,成熟群)に,母子保健事業等の利用経験・支援が得られる期待感(以下,被支持期待感)・母性愛着(以下,MAI)・育児の自己効力感(以下,PSE)をたずねる質問紙調査を行い,各群の被支持期待感の高低別の母性愛着・育児の自己効力感を比較した.

    結果:成熟群では,MAI得点では3つの因子で,家族や仲間からの被支持期待感が高い群が低い群よりも高得点,PSE得点ではすべてのサポート源で被支持期待感が高い群が低い群よりもほぼすべての因子で高得点を示したが,極低群ではMAI得点で差がある因子は一部に限られ,PSE得点では有意差がみられなかった.出生体重と被支持期待感による4群でPSE得点を比較すると,サポート源により有意差がみられた因子が異なった.極低群で専門家からの被支持期待感の高い群は,全員が家庭訪問と健康相談の双方の利用経験があった.

    考察:極低出生体重児の母親は,周囲に支持されていると感じていても母性愛着や育児の自己効力感に影響を与えにくい可能性がある.地域保健では訪問指導を含めた複数回の支援機会をもち,子どもの発達特性も母親の心理特性も踏まえた,個別性・専門性の高い包括的な継続相談をすることが重要である.

  • ―対話的アプローチによる検討―
    門間 晶子, 山本 真実, 細川 陸也, 富塚 美和
    2017 年 20 巻 3 号 p. 54-62
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,乳幼児を育てている母親たちが「しつけ」「虐待」をどのようにとらえているのかについて,対話を通して明らかにすること,およびその過程で生じた親たちと研究者とのやりとりから,子育てにまつわる行為について親たちと対話する場面のつくり方について示唆を得ることである.

    方法:中部地方にある都市の子育て支援センターにおいて,子育て中の母親を対象にほぼ月1回のグループディスカッションを約1年間行い,子どもへのしつけ,体罰,虐待についてのイメージ,考え方,経験等を聞いた.得られたデータを類似した内容ごとに整理し,ディスカッションでの参加者のようす等を含めて分析した.

    結果:12回のセッションに57(延べ82)人の子育て中の母親が参加した.「しつけ」については,その目的,内容,方法に関するさまざまなとらえ方がだされた.「虐待」については,心理的虐待に関するものがイメージとして多くだされた.目的や理由,愛情があれば虐待ではなくしつけであるという考え方も示された.性的虐待やドメスティックバイオレンスに関する内容はでなかった.

    考察:母親たちのしつけや虐待の認識には,親子や周囲の人との関係性や子どもの人権への意識が関連していた.対話を促進する工夫として,自分の言葉で自分のこととして語る機会,互いの相互作用が生まれやすい構成,応答し合う関係性と聞いてくれる人の存在があること,という示唆を得た.

feedback
Top