目的:原子力災害に備える保健活動に関する原子力発電所立地区域の市町村保健師(保健師)の内情を文化として記述する.
方法:エスノグラフィーの手法を用いた.保健師が胸中に秘めている内情を明らかにするため,インタビューによるデータを基軸とし,内情の開示例を用いて記述した.
結果:研究参加者は25人,キーインフォーマントは原子力発電所(原発)立地区域の市町村保健師9人であった.原子力災害に備える保健活動に関する保健師の内情のテーマ“もしものときを想定するほどに立地の保健師の職責を果たせるか不安が募る”は,≪原発と共にある小規模自治体職員の役割を遵守する≫≪住民の命と生活を守るための看護の気づきを溜める≫の2つのドメインのサブセットにより構成された.自治体職員である保健師は,福島第一原発事故後,住民の命と生活を守るために原子力災害に備える保健活動を行うことが自分の職責と意識するも,もしものときを想定すればするほど,役場のなかでその職責が果たせるか不安を募らせていた.
考察:保健師は住民の暮らしと小規模自治体の行財政を支えてきた原発への自身の価値づけに加え,役場の組織風土の影響を受け,自身の気づきを抑制していると考えられる.自治体組織において保健師が原子力災害に備える保健活動を先導して行うことは,個人の努力では限界がある.国や都道府県の広域的支援による,原発立地区域の保健師間の連携や専門性の発揮が必要であることが示唆された.