日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
24 巻, 1 号
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原著
  • ─原子力発電所立地区域の市町村保健師の内情の開示─
    大森 純子, 川崎 千恵, 中野 久美子, 田口 敦子, 北出 順子
    2021 年 24 巻 1 号 p. 4-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
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    目的:原子力災害に備える保健活動に関する原子力発電所立地区域の市町村保健師(保健師)の内情を文化として記述する.

    方法:エスノグラフィーの手法を用いた.保健師が胸中に秘めている内情を明らかにするため,インタビューによるデータを基軸とし,内情の開示例を用いて記述した.

    結果:研究参加者は25人,キーインフォーマントは原子力発電所(原発)立地区域の市町村保健師9人であった.原子力災害に備える保健活動に関する保健師の内情のテーマ“もしものときを想定するほどに立地の保健師の職責を果たせるか不安が募る”は,≪原発と共にある小規模自治体職員の役割を遵守する≫≪住民の命と生活を守るための看護の気づきを溜める≫の2つのドメインのサブセットにより構成された.自治体職員である保健師は,福島第一原発事故後,住民の命と生活を守るために原子力災害に備える保健活動を行うことが自分の職責と意識するも,もしものときを想定すればするほど,役場のなかでその職責が果たせるか不安を募らせていた.

    考察:保健師は住民の暮らしと小規模自治体の行財政を支えてきた原発への自身の価値づけに加え,役場の組織風土の影響を受け,自身の気づきを抑制していると考えられる.自治体組織において保健師が原子力災害に備える保健活動を先導して行うことは,個人の努力では限界がある.国や都道府県の広域的支援による,原発立地区域の保健師間の連携や専門性の発揮が必要であることが示唆された.

研究報告
  • ─行政職歴のない新任期保健師に焦点を当てて─
    宇都宮 千都, 田中 美延里, 野村 美千江
    2021 年 24 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
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    目的:行政職歴のない委託型地域包括支援センター新任期保健師の成長を実感した経験を明らかにすることを目的とする.

    方法:対象は,A県内の委託型地域包括支援センターに所属する実務経験1年以上6年未満の行政職歴のない保健師9人である.方法は質的記述的研究であり,半構造化面接によりデータ収集を行った.データから成長を実感した経験に関連する内容を抽出しカテゴリー化を行い,最上位のカテゴリーのまとまりを様相とした.

    結果:成長を実感した経験は,【地域への接近による住民との信頼関係構築】【小集団の特性に合わせた健康教育の実現】【個別事例への対応による連携ネットワークの形成】【グループ育成を契機とした地域志向性の向上】の4つの様相で示された.【グループ育成を契機とした地域志向性の向上】には,《グループ立ち上げに向けた包括内での試行錯誤》《近隣包括のモデルを参考にしたグループの立ち上げへの挑戦》《グループ育成を通じた保健師役割の自覚》等が含まれた.

    考察:委託型地域包括支援センター新任期保健師は,個別事例の積み重ねにより連携力を高めていた.グループ育成の取り組みにおいて,自組織外に地域づくりのモデルを求めることによって,地域全体をみる視点が培われ,保健師としての成長を実感したと考える.

  • 西 結香, 池田 直隆, 河野 あゆみ, 岡本 双美子
    2021 年 24 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
    ジャーナル フリー

    目的:住民ボランティアの見守り対象高齢者数とその活動や活動満足感・負担感との関連を明らかにすることを目的とした.

    方法:高齢者見守り活動を担う住民ボランティアの1,812人(100%)を調査対象者とし,無記名自記式質問紙調査を実施した.調査項目は基本属性,過去1か月間の見守り対象高齢者数,見守り活動,見守り関連活動,地域高齢者社会活動尺度,見守り活動満足感・活動負担感尺度である.住民ボランティア1人当たりの過去1か月間の見守り対象高齢者数が0人の者を0人群,1人以上5人以下の者を少人数群,6人以上の者を多人数群の3群に分類し,基本属性と見守り関連活動の項目はχ2検定,地域高齢者社会活動尺度と見守り活動満足感・活動負担感尺度の項目は,一元配置共分散分析と多重比較を行った.

    結果:749人(66.8%)を有効回答数とし,分析対象者とした.見守り対象高齢者数が多いほど,見守り関連活動のグループ援助活動の実施者が占める割合や地域高齢者社会活動尺度,見守り活動満足感尺度得点も有意に高かった(p<.001).活動負担感尺度得点は少人数群が0人群と多人数群と比して有意に低かった(p<.001).

    考察:見守り対象高齢者数が多いほど見守り関連活動の実施頻度が高くなること,見守り対象高齢者数と活動満足感は影響することが明らかになった.活動負担感は,見守り対象高齢者数が多すぎることやボランティアの役割を担うこと自体により増大し得ることが考えられた.

  • 藤岡 神奈, 髙嶋 伸子
    2021 年 24 巻 1 号 p. 32-40
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/28
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    目的:養育者との愛着形成が成人期におけるSOC(首尾一貫感覚)と自殺リスクに及ぼす影響の因果構造を明らかにし,支援者が自殺予防対策を講じるための知見を得ることを目的とした.

    方法:地方都市A市に住む20~39歳の男女2,000人を層化無作為抽出し,無記名自記式質問票調査を実施した.SOCと自殺リスク(K6)および,養育者との愛着(母親役割者とのECR-RS;アダルト・アタッチメント・スタイル尺度,父親役割者とのECR-RS),精神的不健康感の因果構造を共分散構造分析により分析した.

    結果:「自殺リスクと母親役割者とのECR-RS,精神的不健康感,SOCの因果モデル」(GFI=0.922, AGFI=0.885, CFI=0.943, RMSEA=0.072)および「自殺リスクと父親役割者とのECR-RS,精神的不健康感,SOCの因果モデル(GFI=0.928, AGFI=0.893, CFI=0.944, RMSEA=0.070)を作成した.2つのモデルに共通して,精神的不健康感から自殺リスクの標準化パス係数が最大であった.また,ECR-RSはSOC, 精神的不健康感を経由してK6を決定係数(R2)=0.75と規定していた.

    考察:精神的不健康感が自殺の「意識的な動機」のひとつであり,母親役割者や父親役割者それぞれとの愛着形成が自殺の「無意識的な動機」のひとつになる因果構造が明らかになった.したがって,成人期の自殺予防対策のためには,産業保健分野と地域保健分野の連携したメンタルヘルス対策に加え,地域保健分野における母親役割者や父親役割者それぞれとの乳幼児(特に生後6か月~5歳前後)に対する愛着形成を深める支援対策が求められる.

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