抄録
本研究は,住民グループのメンバーが活動を地域に発展させていくプロセスを記述することを目的とした.対象は,認知症高齢者(痴呆性高齢者)の介護者の会のメンバー13名であった.データは,対象者への半構成的面接,グループの参加観察,メンバーに関する記録から収集し,grounded theory approachの継続的比較分析を用いて分析した.その結果,以下のことが明らかになった.1.認知症高齢者の介護者の会のメンバーが活動を地域に発展させていくプロセスとは,認知症高齢者の介護について地域に伝えていくプロセスであった.このプロセスは,認知症高齢者の介護について,(1)地域に伝えることができない,(2)地域に伝えなければならない,(3)介護者の会で伝えることができる,(4)-1) 地域に伝えていきたい,(4)-2) 地域に伝えていく,という4段階で構成されていた.2.認知症高齢者の介護について伝えることができない段階のメンバーの苦悩の経験は,後に認知症高齢者の介護について地域に伝えていく原動力となっていた.3.メンバーが介護者の会で介護経験を伝えることを繰り返した経験は,メンバーの認知症高齢者の介護に関する価値観と支援者役割に関する価値観を変換し,支援者となることを可能にしていた.4.メンバーは,介護者の会から,特定の個人,地域全体,未来へと対象と方法を拡大し,認知症高齢者の介護について地域に伝えていった.以上のことから,保健師はグループとメンバーの成熟度を考慮しながら,段階に応じて支援していくことの必要性が示唆された.