抄録
目的:認知症高齢者に自力での食事行動を促す食事援助の手がかりを明らかにすること.方法:対象は介護老人保健施設認知症棟に入所し,食事に介助が必要な高齢者20名である.認知症高齢者の食事行動の問題点,援助方法を文献から抽出し,これを枠組みとして援助内容を参加観察した.同一の対象者に観察者(研究者)を変えて2回観察を行った.結果:対象属性は女性17名,男性3名,平均年齢86.4±5.8(S.D.)歳.アルツハイマー型認知症が35%,日常生活自立度はIIIa・IIIbを合わせて70%を占めていた.食事行動のプロセスは「開始」「食物および道具の操作」「咀嚼・嚥下」「食事行為の持続」「終了」の5つの段階に分類し,小項目として11項目を抽出した.食事援助は「環境整備」「言語による手がかり」「視覚による手がかり」「触覚による手がかり」の4段階に分類した.介護者は言葉により食事行動の継続を促し,食物の提示や咀嚼,嚥下モデルを示すことで,自力での食事行動の促進を図っていた.援助の必要な対象者には初動援助など行動の誘発や反射・反応を促す身体ガイドを実施していた.環境整備では食物の単純化,道具の配置などが行われていた.考察:認知症高齢者の残存している食事行動能力を引き出すための言語による手がかりや視覚による手がかりが段階的・複合的に行われていた.環境整備を行いながら,自力での食事行動の維持が困難になるタイミングを見極めた援助レベルの移行の判断が重要であることが示唆された.