抄録
本研究は,2 つの研究により構成されている。研究 1 では,通常学級担任教師に必要な資質能力の一つとして教師の児童理解力を取り上げ,認知的共感性という概念を用いて先行研究を調査した。その結果,教師の児童理解力として認知的共感性が重要であること,インクルーシブ教育の展開を想定する際,児童の状態を適切に把握するために,敏感性や社会的共感性(個人の特性に応じた理解,状況を考慮した理解)の観点を含めることが必要であることが示された。研究 2 では,教師の児童理解力を測定する尺度を作成するために,公立小学校の学級担任 346 名(男性 131 名,女性 215 名)を対象に調査を実施した。因子分析の結果,「個別性理解」「敏感性」「視点取得理解」の 3 因子構造が示され,α係数の算出により信頼性が確認された。さらに,児童理解尺度の下位尺度から作成した児童理解プロセスのパス解析の結果および,認知的共感性尺度(今野・小川,2012)の下位因子との相関分析の結果により,児童理解尺度の構成概念妥当性が確認された。以上により,小学校担任教師を対象とした児童理解尺度が作成された。