抄録
医原性の横隔膜ヘルニアは稀な疾患で,肺切除術後の発生はわずかな報告しかない.今回,胸腔鏡補助下肺葉切除後に発生した医原性横隔膜ヘルニアの1例を経験したので報告する.81歳女性.左肺下葉S10aの約2.5cm大の腺癌に対し胸腔鏡補助下左肺下葉切除,リンパ節郭清(ND2A)を施行した.術後11ヵ月後に嘔気,嘔吐が出現し,胸部X線写真,胸部CTにて左横隔膜ヘルニアと診断された.第7病日に手術施行.全身麻酔下に左第6肋間後側方切開にて開胸.約1,000mlの血性の胸水貯留を認め,腱中心の部分の裂孔より胃および大網が胸腔内に脱出しており,胃大網側が壁側胸膜と癒着していた.胃の癒着を剥離し,脱出臓器を腹腔内に還納した.横隔膜は1号絹糸にてマットレス縫合した.手術後経過は良好で,現在,術後1年の時点で横隔膜ヘルニア,肺癌ともに再発の兆候なく生存中である.