2010 年 24 巻 5 号 p. 841-845
肺腺癌が嚢胞状に徐々に増大する経過を確認できた症例を経験したので報告する.症例は60歳代男性.既喫煙者(20本/日×43年間).胸部単純X線写真で徐々に増大する右下肺野の嚢胞性陰影を指摘され,紹介となった.4年前には約3cm程度であった嚢胞が,今回の単純X線写真では約3倍にまで増大していた.CTにて直径約80mmの嚢胞性病変が右S6からS9-10にかけて存在し,明らかな壁の肥厚は認めなかったが,葉間リンパ節の腫大を認めたため,肺癌が疑われた.術前診断に至らず,術中の迅速組織診断にて肺腺癌と診断され,右下葉切除術および縦隔リンパ節郭清術を施行した.永久病理検査にて嚢胞壁にほぼ一致して腺癌細胞の拡がりを認め,明らかな腫瘤形成は認めなかった.pT2N2M0 stage III Aとの診断で,術後補助化学療法終了後,外来にて経過観察中である.臨床経過と病理結果から,嚢胞の増大にはチェックバルブ機構が関与していると推測された.