抄録
開胸肺切除術後出血は,現代においても重篤な合併症であり,出血量の的確な推定値から,喪失血液の補充(輸血)と再開胸止血術を考慮しなければならない.出血量の推定にあたっては,ドレーン排液量が実測値としてモニターできる一方で,胸腔内血腫量は計測不能である.再開胸止血術の適応基準が,主としてドレーン排液量をもとにして提唱されているが,実際その客観的な根拠は明確でない.本研究では,2004年10月から2008年9月までに,国立がん研究センター中央病院において施行された肺切除術2,166例の術後に再開胸止血術を要した16例(0.7%)を対象として,ドレーン排液量と再開胸時の胸腔内血腫量との関係を検討した.ドレーン排液量,胸腔内血腫量の平均値は,それぞれ700ml(315-1,525),918ml(78-2,769)であった.ドレーン排液量よりも胸腔内血腫量の方が多い症例が10例(63%)に認められたが,両者の間に有意な相関関係は認められなかった(r=0.03,p=0.25).このことから,術後出血が疑われる開胸例については,胸腔内にはドレーン排液量以上の血液貯留の可能性があること,ドレーン排液量が少なくとも多量の血腫が形成されている可能性があることを念頭に置き,患者の身体的状態(バイタルサイン),血中ヘモグロビン値,胸部X線写真,などを総合的に勘案しながら総出血量を推定する姿勢が求められる.