日本呼吸器外科学会雑誌
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25 巻, 7 号
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原著
  • 淺村 尚生, 河内 利賢, 大山 真有美, 櫻井 裕幸, 渡辺 俊一
    2011 年 25 巻 7 号 p. 696-701
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    開胸肺切除術後出血は,現代においても重篤な合併症であり,出血量の的確な推定値から,喪失血液の補充(輸血)と再開胸止血術を考慮しなければならない.出血量の推定にあたっては,ドレーン排液量が実測値としてモニターできる一方で,胸腔内血腫量は計測不能である.再開胸止血術の適応基準が,主としてドレーン排液量をもとにして提唱されているが,実際その客観的な根拠は明確でない.本研究では,2004年10月から2008年9月までに,国立がん研究センター中央病院において施行された肺切除術2,166例の術後に再開胸止血術を要した16例(0.7%)を対象として,ドレーン排液量と再開胸時の胸腔内血腫量との関係を検討した.ドレーン排液量,胸腔内血腫量の平均値は,それぞれ700ml(315-1,525),918ml(78-2,769)であった.ドレーン排液量よりも胸腔内血腫量の方が多い症例が10例(63%)に認められたが,両者の間に有意な相関関係は認められなかった(r=0.03,p=0.25).このことから,術後出血が疑われる開胸例については,胸腔内にはドレーン排液量以上の血液貯留の可能性があること,ドレーン排液量が少なくとも多量の血腫が形成されている可能性があることを念頭に置き,患者の身体的状態(バイタルサイン),血中ヘモグロビン値,胸部X線写真,などを総合的に勘案しながら総出血量を推定する姿勢が求められる.
  • 鮫島 譲司, 田尻 道彦, 高橋 航, 大森 隆広, 益田 宗孝
    2011 年 25 巻 7 号 p. 702-706
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    今回我々は2007年4月から2010年12月の間に,当センターで胸腔鏡手術を行った急性膿胸27症例を検討した.平均年齢64.7歳(32-79歳),男女比26:1,発症から手術までの平均期間は37.1日(3-88日),基礎疾患は糖尿病9例などを認めた.起因菌は9例(33%)で同定され,平均手術時間133.0分(48-250分),平均出血量148.7ml(5-800ml)であった.急性膿胸の病期分類に従うと,滲出期0例,線維素膿性期8例,器質化期19例であった.転帰は軽快23例(20例は膿胸腔が消失.3例は膿胸腔が遺残したものの,感染徴候はないため経過観察中),再掻爬3例(2例は再掻爬後軽快,1例は再掻爬後に開窓術を施行),周術期死亡1例であった.今回の検討では器質化期が多かったにもかかわらず,83%(20例)の症例では1回の掻爬で膿胸腔が消失した.しかし,器質化期では周術期合併症が多く発生したことから,適応症例を選別していく必要がある.
  • 木村 亨, 竹内 幸康, 船越 康信, 大瀬 尚子, 楠本 英則, 前田 元
    2011 年 25 巻 7 号 p. 707-713
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    非小細胞肺癌p-N2完全切除術後再発症例は全術後再発症例の中でも予後不良である.現行治療で予測される再発後生存期間を明らかにするため当院でのp-N2完全切除術後再発の治療と予後因子をretrospectiveに検討した.対象は1998~2007年のp-N2非小細胞肺癌完全切除74例中,術後再発59例(79.7%).症例は男性31例,女性28例,平均年齢64.2歳.術後無再発生存期間中央値16.0ヵ月,再発後の薬物療法は45例(76.2%)で施行,再発後生存期間中央値17.2ヵ月で,再発後生存率1年,3年が62.2%,28.1%であった.多変量解析で,p-N2 single-station,術後無再発生存期間1年以上,再発後薬物療法あり,再発病巣の外科切除・放射線治療の4因子が独立した予後良好因子であった.3因子以上持つ症例の再発後中間生存期間40.4ヵ月,再発後生存率1年,3年が87.5%,57.4%であった.p-N2肺癌術後再発例でもp-N2 station数や無再発生存期間により予後が比較的良好な症例があり,積極的な治療により生存期間延長が期待できる.
  • 飯村 泰昭, 加賀 基知三, 樋田 泰浩, 椎名 伸行, 大高 和人, 武藤 潤, 加地 苗人, 渡辺 敦, 近藤 啓史, 近藤 哲
    2011 年 25 巻 7 号 p. 714-718
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    日本呼吸器外科学会北海道地区胸腔鏡手術セミナーにおけるトレーニング効果について報告する.受講者は延べ39名.ビデオモニター下にドライボックストレーニングを行った.縫合,結紮をタスクとして,その完結時間をトレーニング前後に測定した.全受講者の縫合完結時間はトレーニングにより315秒から239秒に,結紮完結時間は359秒から286秒に有意に改善した.卒後年数と胸腔鏡下肺葉切除経験数によるトレーニング前タスク完結時間の比較では,卒後年数,胸腔鏡下肺葉切除経験数はともに縫合完結時間との間に相関を認めなかったが,結紮完結時間との間に負の相関を認めた.
    2回目の受講者(n=12)においても,結紮完結時間はトレーニングにより310秒から256秒へと改善を認めた.ドライボックスによる胸腔鏡手術トレーニングは有用であり,繰り返しトレーニングする必要がある.
症例
  • 新居 和人, 岡本 卓, 中島 尊, 渋谷 祐一, 岡林 孝弘
    2011 年 25 巻 7 号 p. 719-722
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は78歳の女性.健診での胸部X線写真で左第2弓の拡大を指摘され,当院に紹介となった.胸部CT・MRIにて,前縦隔に径35×35mmの嚢胞性腫瘤を認めた.腫瘍は上行大動脈に接し,内部は均一で壁構造や充実性成分も認めないことより胸腺嚢胞が疑われた.2010年3月に,胸腔鏡下縦隔腫瘍摘出術を施行した.手術は右側臥位にて完全胸視下に3ポートで行った.術中所見でも嚢胞と思われ,嚢胞切除を施行した.病理学的には,副甲状腺嚢胞と診断された.術前より高Ca血症や明らかな副甲状腺機能亢進症の症状を認めないため,非機能性の副甲状腺嚢胞と診断した.縦隔腫瘍において嚢胞性疾患は比較的多い部類の疾患だが,縦隔副甲状腺嚢胞は稀である.胸腔鏡下に切除した縦隔副甲状腺嚢胞の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 岡川 武日児, 宇佐美 範恭, 岡阪 敏樹, 川口 晃司, 福本 紘一, 横井 香平
    2011 年 25 巻 7 号 p. 723-726
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,男性.来院の1週間前より咳嗽が出現し,3日前より発熱が出現していた.就寝中に喀血を認めたため当院救急外来を受診した.胸部単純CTにて右肺下葉に低濃度の腫瘤性病変と液体貯留を認め,肺化膿症と診断し緊急入院とした.翌日,原因検索目的に胸部造影CTを施行したところ,胸部下行大動脈より右肺下葉に流入する異常動脈を認め,肺分画症と診断した.感染を合併し肺化膿症となった分画肺が破綻して血胸・肺内出血を来たし,気道系への吸い込みにて喀血となったと考え,緊急に右肺下葉切除を施行した.手術所見から分画肺は正常胸膜と境界がなく,肺葉内肺分画症であった.また一部胸膜が裂けており肺内に凝血塊も認められた.肺分画症は胸部X線写真などで偶然発見されることが多いが,放置すると今回のような重篤な経過をたどる可能性があるため,無症状でも手術適応があると再認識した.
  • 千場 隆, 大崎 敏弘, 小舘 満太郎
    2011 年 25 巻 7 号 p. 727-731
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.健診の胸部X線で右心陰影とのシルエットサインが陰性の腫瘤陰影を指摘された.胸部CT, MRIでは第8~10胸椎右側に接して軟部組織濃度と脂肪濃度が混在する辺縁明瞭な60×30mmの腫瘤を認めた.画像から脂肪肉腫を疑い腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は肉眼的に境界明瞭な53×38×25mmの充実性腫瘤で,病理学的には薄い線維性被膜に包まれた成熟脂肪組織に三系統の造血細胞を含む骨髄組織を島状に認め骨髄脂肪腫と診断された.縦隔に発生する骨髄脂肪腫は稀な疾患であり,自験例を含め過去20年間に報告された15例を集計し考察を加え報告する.
  • 橋本 章太郎, 西尾 渉, 田根 慎也, 真庭 謙昌, 吉村 雅裕
    2011 年 25 巻 7 号 p. 732-735
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,男性.右頚部の腫脹,疼痛を主訴に受診したところ,右頚部から胸腔内におよび上縦隔を左側に圧排する巨大な腫瘍を指摘された.生検にてsolitary fibrous tumorが疑われ,手術目的に入院となった.手術は耳鼻咽喉科と共同にて施行した.modified hemi-clamshell incisionにてアプローチし,腫瘍摘出術および右鎖骨下動脈再建術を施行した.第5,7,8頚椎椎間孔周囲の腫瘍は神経温存のため不完全切除とした.病理組織診ではdesmoid tumorと診断された.腫瘍残存部には術後放射線療法を施行し,術後1年を経過した時点で再発を認めていない.
  • 今井 茂郎, 松本 理恵
    2011 年 25 巻 7 号 p. 736-740
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は81歳女性.発熱,左胸痛,右歯肉部腫脹にて近医を受診し,胸部X線で左胸水を指摘され当院を紹介された.白血球数と炎症反応が著明に上昇し,CTにて左多房性胸水と両側肺の胸膜直下に多発性結節を認め,敗血症性肺塞栓症による急性膿胸と診断した.また右上第1歯の埋伏と周囲膿瘍以外に敗血症性肺塞栓症の原因はなかった.治療は左胸腔ドレナージをおこなったが,十分ドレナージされないため,左胸腔内にウロキナーゼを投与した.ウロキナーゼの胸腔内投与により胸水は減少したものの膿胸腔は残存したため,胸腔鏡下手術を施行するとともに,埋伏歯を抜歯した.歯性感染症が原因の敗血症性肺塞栓症に起因する稀な急性膿胸を経験したので報告する.
  • 河野 朋哉, 松井 千里, 寺田 泰二
    2011 年 25 巻 7 号 p. 741-746
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は64歳女性.1990年に大腿の軟部腫瘍を切除された.2001年に胸部X線にて左下肺野の結節影を指摘された.胸部CTで左肺下葉に20mm大の辺縁明瞭な腫瘤を認め,胸腔鏡下に腫瘍切除を行った.病理診断は孤立性線維性腫瘍(SFT)であった.2006年の健康診断で再度同部位に結節影をみとめ,胸腔鏡補助下小開胸にて再度腫瘍切除を行った.病理診断はSFTであったが,前回と比べ,核分裂像の増加をみとめ,やや悪性化した印象であった.大腿部の腫瘍もSFTであることが確認された.SFTは再発・転移を起こすことがあり,長期の経過観察が必要である.また遺残細胞によると思われる局所再発も考えられるので,外科切除時には注意が必要である.
  • 奥谷 大介, 森山 重治
    2011 年 25 巻 7 号 p. 747-750
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    肋骨骨折に伴う横隔膜損傷のため出血性ショックを呈した遅発性血胸の1例を経験したので報告する.症例は22歳男性.交通事故による左血気胸,左肺挫傷,左第6-9肋骨骨折のため14日間入院し保存的治療にて改善していた.受傷後37日目の朝,起き上がろうとして突然胸痛をきたし,左血胸による出血性ショックのため救急搬送された.胸腔鏡下に緊急手術を施行し,肋骨骨折断端によると思われる横隔膜損傷を認めたので4cmの小切開を加えて縫合止血と胸腔内に突出した肋骨断端を切除した.横隔膜損傷に対する胸腔鏡手術は低侵襲で有用である.
  • 前田 直見, 片岡 正文, 大原 利憲
    2011 年 25 巻 7 号 p. 751-755
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.Wegener肉芽腫症による腎機能障害にて当院内科に通院加療中であった.咳嗽に対して胸部精査を行ったところ胸部X線写真で左上肺野に異常陰影を認め,CTで左上区枝の閉塞および上区の無気肺を認めた.気管支鏡検査で左上区枝の閉塞と出血を認め,同部位の生検で扁平上皮化生を認めた.PET/CTで左上区域にFDGの強い集積を認め,左上葉肺癌に伴う無気肺,肺膿瘍の診断で左肺上葉切除を施行した.術後病理診断は活動性Wegener肉芽腫症をベースとして,気管支拡張,二次的な気道感染から膿瘍を形成したものと判断された.
  • 尾崎 良智, 井上 修平, 藤田 琢也, 大内 政嗣, 高萩 亮宏
    2011 年 25 巻 7 号 p. 756-760
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    肺コクシジオイデス症は北米を中心に流行する風土病であり,我が国ではまれな輸入感染症として知られている.症例は24歳の米国籍の男性.米国アリゾナ州に5年間の居住歴があり,英語教師として来日し,翌年の検診で胸部異常陰影を指摘された.自覚症状はなく,胸部CTで右肺下葉に2cm大の円形孤立性結節影を認めた.胸腔鏡下右肺部分切除を施行され,切除標本よりCoccidioides immitisを検出し,慢性肺コクシジオイデス症(コクシジオイドーマ)と診断された.本症の我が国での報告数は増加傾向にあるが認知度はいまだ低く,流行地への訪問歴,滞在歴のある患者の診療においては留意すべきと考えられる.
  • 砥石 政幸, 近藤 竜一, 矢満田 健
    2011 年 25 巻 7 号 p. 761-766
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,女性.1996年12月,左卵巣癌の診断で子宮全摘術および両側付属器切除術を施行し,病理組織診断は粘液性嚢胞腺癌,p-stage IIIcであった.1999年7月,術後肝転移の診断で化学療法を施行しCRを得た.さらに2003年2月,癌性腹膜炎の診断で再度化学療法を施行してCRとなり,以降再発なく外来経過観察中であった.2009年10月,胸部CTで右S3aに空洞形成を伴う15mm大の病変を指摘され精査を行い,原発性肺癌の診断で2010年1月,右上葉切除術を施行した.病理組織学的には低分化な腺癌で,摘出卵巣癌と同様の組織像であり卵巣癌の肺転移と診断された.今回検索し得た範囲で空洞形成を伴う卵巣癌肺転移の報告は1例しかなく,稀な症例と考えられたため報告する.
  • 井上 啓爾, 北島 正親, 小原 則博, 廣瀬 寮二, 福田 実, 入江 準二
    2011 年 25 巻 7 号 p. 767-772
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は64歳の女性. 2009年3月より顔面の紅斑腫脹,嚥下困難を認めて,当院皮膚科紹介となった.皮疹,筋力低下,CPK上昇,筋肉痛,炎症反応より皮膚筋炎と診断された.同時に悪性疾患の検索が行われ,右下葉肺腺癌が認められた.右下葉切除と縦隔リンパ節郭清が行われたが,術直前に嚥下困難などの症状増悪のためステロイドを投与せざるを得なかった.術後9病日目に気胸を発症し,ドレーンを挿入するも著明なair leakが続いた.CT,気管支鏡検査にて気管支断端瘻と診断され,17病日に気管支断端瘻閉鎖と大網被覆術をおこなった.26病日に,皮膚筋炎治療のため内科転科となった.皮膚筋炎合併肺癌手術後の合併症として気管支瘻に注意する必要があると思われた.また気管支断端瘻の治療として大網被覆術が有用であった.
  • 飯森 俊介, 住友 伸一, 松本 和也, 奥田 昌也, 中野 貴之, 住友 亮太
    2011 年 25 巻 7 号 p. 773-775
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は59歳女性.2日前より呼吸苦があり近医を受診.胸部X線で右胸水貯留と診断され,当院に搬送となった.来院時,呼吸不全状態であり,CTで右大量胸水により右肺は虚脱し,縦隔は左に偏位していた.緊急で胸腔ドレーンを挿入したところ,白濁した胸水が流出し,乳糜胸と診断した.絶食,中心静脈輸液にて乳糜の排出が止まらないため手術を施行した.術前に脂肪負荷し,開胸したところ,横隔膜部で胸管が嚢胞状に拡張しており胸管嚢胞と診断した.胸管をミルキングすると破裂した胸管嚢胞より乳糜が漏出した.胸管嚢胞を腹側に追跡したところ,後腹膜に至るところまで連続していたため,可能なところまで剥離し結紮した.術後経過は良好であり,乳糜胸の再発は認めていない.縦隔内胸管嚢胞は現在までに32例の報告がされている稀な疾患である.本症例のように破裂すると乳糜胸による呼吸不全を呈することもあり注意が必要である.
  • 高萩 亮宏, 山下 直己, 高橋 耕治, 伊東 真哉, 吉村 誉史, 塙 健
    2011 年 25 巻 7 号 p. 776-781
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    繰り返す気道出血に対して左肺全摘術を施行し,術後肺放線菌症と診断された症例を経験した.症例は62歳男性.前医で気道出血に対して繰り返し動脈塞栓術が行われたが喀血をきたすため紹介となった.左肺全摘術を施行したところ,病理組織学的検査から肺放線菌症と診断された.肺放線菌症は,嫌気性病原体による慢性炎症性肉芽腫性疾患であるが,微生物学的に診断が困難である.ペニシリンに感受性を示すが,耐性菌と共存することで難治性気道出血の原因となり,しばしば外科的治療の対象となる.本症例における臨床経過,手術,病理組織学的検査を,文献的考察を加え報告する.
  • 砥石 政幸, 近藤 竜一, 矢満田 健
    2011 年 25 巻 7 号 p. 782-788
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.CT検診にて前縦隔腫瘤を指摘され当科を受診した.胸部CTにて前縦隔左側に3cm大,辺縁一部不整だが境界明瞭,辺縁に優位な造影効果を伴う腫瘤を認めた.1ヵ月後のCT再検にて腫瘤に著変はなかったが,嚢胞化を伴う胸腺腫を疑い,診断および治療目的で胸腔鏡下手術の方針とした.左胸腔よりアプローチし,腫瘤は暗赤色,弾性軟であり,胸腺左葉と一塊に切除した.病理組織学的には毛細血管の増生よりなり,前縦隔に発生した毛細血管性血管腫と診断した.縦隔発生の血管腫は稀であるが,適応を厳選すれば体位やアプローチの工夫などで胸腔鏡下に安全に診断・治療ができると考えられた.
  • 有倉 潤, 安達 大史, 近藤 啓史
    2011 年 25 巻 7 号 p. 789-793
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    本邦の報告では非常に稀な腫瘍である胸膜原発平滑筋腫の1例を経験したので報告する.症例は52歳女性で,胸部検診で右肺門部に腫瘤影を指摘され当院受診.胸部CTで右肺上葉から中葉にかけ,右肺動脈に接する5.8×4.6cm大の辺縁整で内部不均一な造影を伴う腫瘤影を認めた.FDG-PETでは同腫瘤にSUV max 6.1の集積を認めた.気管支鏡では所見なく,確定診断に至らず診断治療目的に手術施行.上中葉間に弾性硬・黄白色の腫瘍を認め,周囲臓器から容易に剥離可能であった.境界明瞭な淡黄色充実性の多結節性の腫瘍で,病理組織検査で平滑筋腫の診断となった.全身検索を施行したが他に原発となる病変はなく,胸膜原発平滑筋腫と診断した.
  • 佐野 史歩, 須藤 学拓, 植木 幸一, 田中 俊樹, 上田 和弘, 濱野 公一
    2011 年 25 巻 7 号 p. 794-799
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例1は60歳代女性.持続腹膜透析を開始後6ヵ月で右胸水が出現し横隔膜交通症と診断された.症例2は60歳代男性.持続腹膜透析を開始後5ヵ月で透析中の呼吸困難が出現し横隔膜交通症が疑われた.両症例に対して胸腔鏡下横隔膜縫縮術を施行し,持続腹膜透析を継続することが可能となった.本術式は比較的低侵襲な手術であり,持続腹膜透析維持を可能にする有効な治療法の一つであると考えられた.
  • 松浦 陽介, 渡 正伸
    2011 年 25 巻 7 号 p. 800-805
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    高齢者に対する肺癌手術は増加傾向にある.高齢者肺癌症例では,併存する基礎疾患への対策が重要となる.中でも慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)を合併する症例においては,術後合併症の発生率が有意に高いとされており,その対策が重要と考えられる.当院では,2009年10月より,高齢者COPD合併肺癌に代表される高リスク手術症例に対し,術後合併症発症の低下を目指し,栄養科,リハビリテーション科,当科の多職種が協同で,集学的な術前サポートを行う取り組みを開始した.今回,88,87歳と超高齢者COPD肺癌症例に対し,術前からの集学的サポートを行うことで,術後合併症を発症することなく無事退院可能となった2症例を経験した.当院での取り組みが有効であったと考えられる,典型的な2症例と考えられたため,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 吾妻 寛之, 羽切 周平, 吉岡 洋
    2011 年 25 巻 7 号 p. 806-808
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は57歳男性.直腸癌(pT3N1M0,Stage III A)に対し,2007年2月に高位前方切除術とリンパ節郭清が施行され術後1年間UFTの内服を行った.2008年7月の胸部CTで右S10に薄壁空洞病変が出現し,増大傾向と壁の不均一な肥厚を認めるようになった.臨床上悪性を疑ったが経気管支肺生検では診断がつかず,胸腔鏡下に切除生検を行い,直腸癌の肺転移と診断した.薄壁空洞病変は慎重な経過観察を行い,悪性を疑う所見が得られた場合は生検等で確定診断を行う必要があると考えられた.
  • 岡林 孝弘, 渋谷 祐一, 岡本 卓, 中島 尊
    2011 年 25 巻 7 号 p. 809-814
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,男性.15年前に右肺癌にて右肺下葉切除術の既往あり.前立腺癌の治療中,右中葉から上葉にかけて無気肺が進行し,右残存肺癌の診断により他院で右残存肺全摘術を受けた.術後9ヵ月ごろから咳・痰などの呼吸器症状が出現し,11ヵ月後に呼吸困難症状で入院した.
    胸部X線,CT,気管支鏡により,右主気管支断端部から気管内腔へ突出し気道閉塞する腫瘍を認め,肺癌再発と診断した.呼吸困難に対して硬性気管支鏡下に腫瘍のレーザー焼灼および機械的切除後,カバー付きメタリックステントを留置して中枢気道の開存を得た.気道狭窄解除後,局所麻酔下右審査胸腔鏡により胸腔内に再発のないことを確認した.
    気道ステント留置23日後に根治手術を行った.硬性気管支鏡下にメタリックステントを抜去し,右開胸で気管分岐部の気管・左主気管支管状切除し,端々吻合にて再建した.合併症なく経過し,現在まで再発なく経過中である.
  • 氏家 秀樹, 吉野 直之, 中島 由貴, 岡田 大輔, 秋山 博彦
    2011 年 25 巻 7 号 p. 815-819
    発行日: 2011/11/15
    公開日: 2012/01/16
    ジャーナル フリー
    非常に稀な肺原発淡明細胞腫の1切除例を経験した.症例は57歳女性.胸部打撲精査で施行した胸部X線写真にて,右下肺野に結節影を指摘された.胸部CTにて右中葉に辺縁整で,比較的造影効果の高い14mm大の結節を認め,転移性肺腫瘍または良性腫瘍を疑わせる所見であった.FDG-PETでは右中葉の結節影を含めて,全身に明らかな異常集積を認めなかった.診断および治療目的で胸腔鏡下右肺中葉部分切除術を施行した.腫瘍は,19×13×10mm大,白色調,充実性腫瘍であり,病理所見では,細胞異型は乏しく,壊死や核分裂像は明らかではなく,淡明で比較的豊かな細胞質を有する明細胞が充実性に増殖していた.免疫組織化学的染色ではHMB45(+),vimentin(+),TTF-1(-),SP-A(-),AE1/3(-),CAM 5.2(-)であった.以上より,肺原発淡明細胞腫と診断された.
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