2015 年 29 巻 5 号 p. 587-592
胸部領域での脂肪肉腫の発生は稀である.今回,縦隔と胸壁に異なる組織型の脂肪肉腫が発生した症例を経験した.症例は67歳男性.胸部異常陰影を指摘され,縦隔粘液型脂肪肉腫と右前胸壁脂肪腫が疑われた.縦隔腫瘍摘出術を行い,組織学的に粘液型脂肪肉腫と診断されたが,顕微鏡的断端陽性であった.再発予防目的で縦隔に60 Gyの放射線照射を施行した.経過観察中に胸壁腫瘤が増大し,高分化型脂肪肉腫が疑われた.縦隔手術から16ヵ月後に右胸壁腫瘍に対して辺縁切除術を施行した.病理では高分化型脂肪肉腫との診断であった.2つの脂肪肉腫は独立して発生したと考えられた.胸壁手術から19ヵ月が経過したが,ともに再発所見はない.縦隔の粘液型脂肪肉腫に対しては,顕微鏡的断端陽性であっても手術と術後放射線照射を組み合わせることで予後が改善する可能性がある.胸壁の高分化型脂肪肉腫に対しては意図的辺縁切除術が有効である可能性がある.