日本呼吸器外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-4158
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29 巻, 5 号
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原著
  • 大和田 有紀, 中島 由貴, 井上 卓哉, 木下 裕康, 井上 賢一, 秋山 博彦, 鈴木 弘行, 浦本 秀隆
    2015 年 29 巻 5 号 p. 546-551
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    1978年から2013年に当科で手術を行った乳癌肺転移63例を対象とし,予後因子について統計学的に検討した.単変量解析の結果,予後不良因子は,肺転移最大腫瘍型3 cm以上,ER(estrogen receptor)陰性,乳癌手術時病期StageIII/IV,無病生存期間DFI(desease free interval:乳癌原発巣手術から肺転移手術までの期間)24ヵ月未満,肺手術時の縦隔・肺門部リンパ節転移陽性であった.完全切除と非完全切除例では生存率に有意差は無く手術療法単独での治療的意義は乏しい.しかしホルモンレセプターの評価や診断のために確実に病変を採取することを目的とした手術は必要であると考えられた.予後因子として多変量解析で腫瘍径3 cm未満という結果が得られたが,肺病変完全切除後の他臓器への再発の可能性もあることを考慮すると,症例の選択に関しては今後さらなる検討が必要である.
  • 光岡 正浩, 寺﨑 泰宏, 岡本 祐介, 手石方 崇志
    2015 年 29 巻 5 号 p. 552-558
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    術前検査で触知不能と予測される肺野末梢小型結節影に対して,我々はハイブリッド手術用X線撮影装置を使用して術中にその局在を確認する方法を行ってきたので報告する.Allura Xper FD20撮影装置とマグナス手術台を融合させたシステムを使用した.2013年7月より約1年間に17症例19病巣に対して本法を施行した.結節のサイズは3-20 mm,病巣指摘率は100%,最終病理診断は原発性肺癌8病巣,転移性肺腫瘍9病巣,良性2病巣であった.手術専用ベッドとリンクすることによって側臥位固定が安定し,肺尖部から肺底部までスキャン可能で,被曝線量に関する検討でも許容可能な範囲であった.この方法は空気塞栓などの重篤な合併症を回避でき,全ての手技が手術室で完遂でき,追加切除にも対応可能であり,今後期待できる方法であると考えられた.
  • 河北 直也, 広瀬 敏幸, 森下 敦司, 住友 正幸
    2015 年 29 巻 5 号 p. 559-565
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    急性膿胸に対する胸腔鏡下手術は低侵襲で安全性が強調される報告が多いが,適応拡大に伴い,全身状態不良な患者においては合併症,死亡率ともに高いことが示唆されている.2011年1月からの3年間に当院で肺炎後の急性膿胸に対して35例の胸腔鏡下手術を施行し,術後合併症は10例(29%)で,在院死は3例(8.6%)であった.術後合併症に与える術前の因子を検討したところ,術前の血清アルブミンの最低値が合併症群2.4±0.4 g/dlで非合併症群の2.9±0.6 g/dlよりも有意に低く(p=0.012),また,PS0-2の患者よりPS3-4の患者が合併症を高率に発症していた(p=0.002).ROC曲線からはアルブミンのカットオフ値を2.5 g/dl以下にすると感度84%,特異度80%で合併症発生予測が可能であった.今後,合併症危険群を術前に判断し,それに応じた治療戦略を考慮する必要があると思われた.
  • 角岡 信男, 平山 杏, 松田 史雄, 稲沢 慶太郎
    2015 年 29 巻 5 号 p. 566-571
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    予後不良と報告される腺扁平上皮癌において,その臨床病理学的特徴を腺癌および扁平上皮癌と比較し,また再発因子について検討した.2005年から2013年まで,当科で根治的手術を行った肺腺扁平上皮癌20例(術後経過観察期間中央値13.5ヵ月(6-60ヵ月))を対象とし,同時期に根治手術を施行した腺癌710例,扁平上皮癌174例と比較した.喫煙指数,PET-CTでのSUV max,CEA,CYFRAなどが腺癌に比べ有意に高値であった.術後病理病期は,腺癌に比べてIA期が少なく,両群よりIIB期が多かった.また術後再発率は両群より有意に高く,多変量解析からはリンパ節転移陽性と血管侵襲が多いためと考えられた,術後再発を来した症例は10例であり,T因子や胸膜浸潤は再発因子にはならない一方で,高度の重喫煙者やCEAが高い症例で再発しやすく,また血管侵襲の高い症例において再発のリスクが高かった.
  • 松岡 隆久, 今西 直子, 長井 信二郎, 松岡 勝成, 植田 充宏, 宮本 好博
    2015 年 29 巻 5 号 p. 572-575
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    急性膿胸に対する胸腔鏡下(VATS)掻爬術の有効性が報告されているが,High-Volume-Centerからのまとまった症例数の報告はない.当科で行ったVATS掻把術100例を対象とし,年齢,性別,併存疾患,術前病悩期間,手術時間,合併症,出血量,術後ドレナージ期間,術後有熱期間,術後WBC改善期間,術後在院日数を検討し,術前病悩期間と術後合併症の関係を含めて,前期(n=44;1998年4月~2008年9月),2009年本学会報告以降の後期(n=56;2008年10月~2013年4月)に分け比較検討した.術前病悩期間および胸水確認から手術までの期間は有意に短縮されていた.術後合併症は術前病悩期間2週間以上経過した症例で有意に多かった.急性膿胸に対する治療の要点は,保存的治療抵抗症例をいかに早く見抜き手術を施行するかであるため,従事する全ての医師の意識・関心を高めることも重要である.
  • 滝沢 宏光, 坪井 光弘, 梶浦 耕一郎, 鳥羽 博明, 中川 靖士, 川上 行奎, 吉田 光輝, 先山 正二, 近藤 和也, 森下 敦司, ...
    2015 年 29 巻 5 号 p. 576-581
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    腫瘍径2 cm以下であっても胸膜浸潤を有する症例は予後不良であり,縮小手術の適応についてコンセンサスは得られていない.術中所見で胸膜浸潤をどれだけ正確に診断できるのか検討した.呼吸器外科に所属する医師12名を対象に,臨床問題形式でデータを収集した.症例は胸膜変化を認めた肺癌手術症例30例で,平均年齢は66.8歳,男性14例,女性16例,平均腫瘍径は27 mm,組織型は腺癌22例,扁平上皮癌7例,その他1例で,pl0が22例,pl1以上が8例であった.回答者は①術前CT,②組織型,③胸膜変化を捉えている術中動画から胸膜浸潤なし(PL0),あり(PL1以上)を判断し,病理学的胸膜浸潤に対する感度,特異度,正診率を算出した.胸膜浸潤診断の感度66.7%,特異度61.4%,正診率62.8%であった.術中の胸膜浸潤診断の精度は高くないため,術式選択の基準に採用できる新たな診断法の開発が望まれる.
症例
  • 篠原 周一, 下川 秀彦, 宗 知子, 浦本 秀隆, 田中 文啓
    2015 年 29 巻 5 号 p. 582-586
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    縦隔原発非精上皮腫性胚細胞性腫瘍に対しては化学療法を先行し,腫瘍マーカーが正常化した後に手術が勧められる.しかし,近年腫瘍マーカーが正常化しないにも関わらず手術した症例で長期予後が報告されている.今回,化学療法後AFPが正常化しなかったが,手術により完全切除し術後17ヵ月再発を認めていない縦隔原発卵黄囊腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は21歳男性,CTで11 cmの前縦隔腫瘍を指摘され,生検にて縦隔原発卵黄囊腫瘍と確定診断されBEP療法を行ったが,腫瘍マーカーは陰性とならず,二次および三次化学療法を行うも逆に腫瘍マーカーの上昇を認め,化学療法の効果が不十分であると判断して手術を施行.心膜合併切除と左腕頭静脈合併切除を行い,腫瘍を完全切除した.現在術後17ヵ月無再発生存中である.
  • 山岸 弘哉, 住友 伸一, 石川 将史, 福井 哲矢, 尾田 博美
    2015 年 29 巻 5 号 p. 587-592
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    胸部領域での脂肪肉腫の発生は稀である.今回,縦隔と胸壁に異なる組織型の脂肪肉腫が発生した症例を経験した.症例は67歳男性.胸部異常陰影を指摘され,縦隔粘液型脂肪肉腫と右前胸壁脂肪腫が疑われた.縦隔腫瘍摘出術を行い,組織学的に粘液型脂肪肉腫と診断されたが,顕微鏡的断端陽性であった.再発予防目的で縦隔に60 Gyの放射線照射を施行した.経過観察中に胸壁腫瘤が増大し,高分化型脂肪肉腫が疑われた.縦隔手術から16ヵ月後に右胸壁腫瘍に対して辺縁切除術を施行した.病理では高分化型脂肪肉腫との診断であった.2つの脂肪肉腫は独立して発生したと考えられた.胸壁手術から19ヵ月が経過したが,ともに再発所見はない.縦隔の粘液型脂肪肉腫に対しては,顕微鏡的断端陽性であっても手術と術後放射線照射を組み合わせることで予後が改善する可能性がある.胸壁の高分化型脂肪肉腫に対しては意図的辺縁切除術が有効である可能性がある.
  • 目崎 久美, 花岡 俊仁, 福原 哲治, 中川 和彦, 小林 一泰, 白川 敦子
    2015 年 29 巻 5 号 p. 593-599
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    患者は84歳,男性.右肺上葉切除の既往があった.右胸腔内に増大する腫瘤影を認め,精査の後に経過観察していた.腫瘤は横隔膜を穿破して後腹膜腔に増大し,ドレナージにより血腫と診断した.一旦は保存的治療で改善したが,再度増大し,胸腔・後腹膜腔の血腫と被膜の切除,胸郭形成,大網・肋間筋弁充填を行った.術後の経過は概ね良好であった.9ヵ月後に血腫が皮下に再燃し,ドレナージと癒着療法により加療し,再発なく経過した.胸腔内のchronic expanding hematomaが胸腔外へ進展した例は少なく,特に後腹膜腔への進展は稀である.自験例は横隔膜を穿破して拡大し,後腹膜腔に新たな血液貯留部を形成しており,同様の報告はみられない.加えて,自験例ではわずかな被膜の残存から血腫の再発を認め,これに対して保存的加療を行った.以上より,血腫の進展機序,再発とその治療に関して示唆に富む1例と考えられた.
  • 林 一喜, 花岡 淳, 橋本 雅之, 大塩 恭彦, 五十嵐 知之, 賀来 良輔
    2015 年 29 巻 5 号 p. 600-604
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男性.上縦隔から頚部にかけて多発するリンパ節腫大を認め,針生検では診断が得られず,紹介となった.悪性リンパ腫を疑い,頚部リンパ節生検および胸腔鏡でのリンパ節生検を施行したが診断は得られなかった.そのため,最も腫大したリンパ節を胸骨L字切開と鎖骨上窩頚部半襟状切開を併用して摘出し,hyaline vascular typeのCastleman病と診断を得た.Castleman病は生検では診断に難渋することがあり,その場合はリンパ節をen blocに切除する必要があると考えられた.また,多くの血管や神経が集中する縦隔に好発することから,腫大リンパ節の局在に応じた術式を考慮する必要があると考えられた.
  • 藤原 俊哉, 荒木 恒太, 西川 仁士, 小谷 一敏, 松浦 求樹
    2015 年 29 巻 5 号 p. 605-609
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    胸部外傷後の経過中に画像上縮小を示した胸腺癌の1例を経験した.症例は54歳,男性.事故により多発骨折,外傷性血気胸を受傷した.加療ののち当院へ紹介となった.受傷時CTで前縦隔左側に29 mm大の結節を認めていたが,3ヵ月後,無治療で18 mm大に縮小していた.PET-CTでは同部にFDG集積を認めた.胸腺上皮性腫瘍を疑い,胸腺摘除術を施行した.術中迅速組織診断では胸腺腫と診断されたが,術後病理診断では胸腺癌と診断された.術後補助化学療法を行い,現在1年経過し,無再発経過観察中である.きわめて稀であるが,癌が自然経過で縮小するという報告があり,慎重な対応が要求される.
  • 岡部 亮, 磯和 理貴
    2015 年 29 巻 5 号 p. 610-614
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は58歳男性.転倒による外傷性血気胸に対して持続胸腔ドレナージによる加療を行い退院となったが,退院3日後に側胸部,背部痛を主訴として来院し,膿胸と診断し,再入院となった.第8病日に両下肢に紫斑を認め,Henoch-Schönlein紫斑病と診断された.第14病日に膿胸に対して胸腔鏡下醸膿胸膜切除術を施行後に急性腎不全となり,透析とステロイドパルス療法を施行した.腎機能は徐々に改善し,週3回から週1回の透析に減り,術後66日目に退院.術後3ヵ月目に透析から離脱した.
  • 福井 哲矢, 住友 伸一, 石川 将史, 西田 智喜, 山岸 弘哉, 尾田 博美
    2015 年 29 巻 5 号 p. 615-621
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は30歳男性.初診1年前に右肺炎の既往がある.発熱と前胸部腫脹を主訴に来院し,CTで前縦隔膿瘍と傍胸骨を介して連続する皮下膿瘍を認めた.皮下膿瘍を切開しドレナージ施行,抗生剤投与にて膿瘍は肉眼的に消失した.外来にて経過観察していたが,10ヵ月後に縦隔膿瘍の再燃を来たした.右開胸縦隔ドレナージ術を施行したが,術後CTで膿瘍腔の遺残が判明した.術後3ヵ月後に再度増悪を来したので,根治的アプローチとして胸骨縦切開法を用いて縦隔膿瘍を郭清し良好な経過となった.本症例は,免疫不全などの明らかな基礎疾患のない若年男性において胸膜癒着を伴う肺炎が縦隔膿瘍に進展したものと推測される稀な1例である.また,低侵襲とされる胸腔鏡手術の普及や術後骨髄炎のリスクから,縦隔膿瘍のドレナージに胸骨正中切開法を選択する機会は減っていると考える.本症例から胸骨縦切開法は難治性の縦隔炎手術の適切な選択肢の1つになりうると考える.
  • 渡邊 拓弥, 中前 勝視, 川野 理, 深井 一郎, 矢野 智紀
    2015 年 29 巻 5 号 p. 622-626
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は右肺癌pT3N1M0 Stage IIIAにて右肺全摘術施行した69歳男性に発症した術後気管支断端瘻である.肋間筋弁による瘻孔閉鎖は奏功せず,開窓術を行った.1年の経過で瘻孔は長径3 cmまで開大し,直接縫合による断端の閉鎖は極めて困難であったため,遊離肋軟骨を用いた閉鎖術を考案した.有茎大網弁を作成した後,右第6肋軟骨弓から肋軟骨を採取した.醸膿膜を可及的に切除し,遊離肋軟骨を気管支断端に縫着し,胸郭形成術および大網充填術を行った.術後経過は良好で,術後11ヵ月で断端瘻の再発を認めていない.断面積の巨大な気管支断端瘻に対し,遊離肋軟骨を用いた閉鎖術は有効な方法の1つと考えられた.
  • 片岡 瑛子, 岡本 圭伍, 大塩 麻友美, 元石 充, 花岡 淳, 澤井 聡
    2015 年 29 巻 5 号 p. 627-631
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は52歳女性.左前胸部痛と発熱で発症し,胸部異常陰影を指摘され当科紹介となった.胸部CTで左前縦隔に5 cm大の全周性に不整な壁肥厚を伴った囊胞性腫瘤陰影と左胸水貯留が認められた.胸痛・発熱は数日で自然軽快し,それとともに左胸水貯留も消失した.胸腺腫や奇形腫が疑われ,診断・治療目的に胸骨正中切開で胸腺胸腺腫瘍摘出術が施行された.病理検査では,腫瘍は明瞭な被膜に囲まれ,割面は黄白色充実性を呈し,腫瘍の95%以上が壊死に陥っていた.辺縁の一部にviableな腫瘍組織が存在し,Type B1の胸腺腫で,正岡分類はI期と診断された.術後2年経過するが再発はみられていない.胸腺腫は壊死や出血,囊胞形成などさまざまな病理像がみられる特徴を有するが,広範囲にわたり壊死所見を呈した胸腺腫は稀であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 浅川 文香, 小林 正嗣, 宇井 了子, 石橋 洋則, 大久保 憲一
    2015 年 29 巻 5 号 p. 632-636
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    神経線維腫症I型を幼少期に指摘された23歳女性.経過観察中に急速に増大する耳下腺腫瘍および頚部・縦隔腫瘍が出現,神経線維腫症悪性転化疑いで手術方針となった.頚部・縦隔腫瘍をTransmanubrial approachおよび胸腔鏡併用にて摘出した.当アプローチ方法は縦隔腫瘤を摘出する上で十分な視野を得ることができ,鎖骨下動静脈や腕神経叢からの安全な剥離が可能であった.
  • 坂根 理司, 水野 幸太郎, 小田 梨紗, 松井 琢哉, 佐野 正明, 山田 健
    2015 年 29 巻 5 号 p. 637-642
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    持続腹膜透析に伴う横隔膜交通症は稀であるが,約半数が血液透析への移行を余儀なくされているのが現状である.今回我々は横隔膜交通症に対して胸腔鏡下手術を施行し良好な経過を得た3例を経験したので報告する.症例1は47歳女性,症例2は73歳女性.いずれも持続腹膜透析開始後4日目に右胸水を認めた.症例3は57歳男性.持続腹膜透析開始後43日目に右胸水を認めた.横隔膜交通症を疑い胸腔鏡下に症例1は横隔膜欠損孔を縫縮,症例2および3は欠損孔が不明のためポリグリコール酸シートとフィブリン糊で横隔膜を被覆した.症例1および2は再発なく持続腹膜透析を継続している.症例3は10ヵ月後に再発を来たし同様の手術を施行後,再発なく持続腹膜透析を継続している.横隔膜交通症に対する胸腔鏡下手術は低侵襲下に施行でき,さらに持続腹膜透析の継続に寄与できることから治療法として有効である.
  • 尾嶋 紀洋, 宮原 佐弥, 杉山 茂樹, 梶原 博, 土岐 善紀, 芳村 直樹
    2015 年 29 巻 5 号 p. 643-649
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    18番トリソミーを伴う肺原発MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫の1例を報告する.症例は80歳,男性.2012年の検診で胸部異常陰影を指摘され当院を紹介受診した.胸部CTでは右肺下葉に4 cm大の腫瘤影を認めた.気管支鏡検査,TBBでは確定診断にいたらず.外来経過観察中に腫瘍の増大傾向を認め,胸腔鏡下肺部分切除術を施行し,肺MALTリンパ腫と診断した.FISH法では,API2/MALT1融合シグナルは認めず,MALT1シグナルを3個認め18番トリソミーと診断した.術後18ヵ月の時点で,再発なく経過良好である.
  • 小貫 琢哉, 倉持 雅己, 稲垣 雅春
    2015 年 29 巻 5 号 p. 650-656
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は54歳男性,陳旧性心筋梗塞,肺気腫,肝障害の既往がある.前医で左肺化膿症と診断され,約1ヵ月間に渡り多種の抗生剤投与を受けた.転院時には左肺上葉が荒蕪化していた.慢性肺アスペルギルス症が疑われたが,確定診断には至らなかった.術前に気管支動脈と胸壁からの異常動脈を塞栓し,後側方切開第5肋間開胸にて左上葉切除術を行った.胸壁と左上葉との間に強固な癒着が存在したが,その切離での出血はごく少量であった.最終診断は慢性肺アスペルギルス症であった.術後2週頃から感染性肺炎を発症した.広域スペクトラムの抗生剤とイトラコナゾールの投与を行い,軽快に2週間を要した.慢性肺感染症に対する術前の動脈塞栓術は,術中出血量を軽減させることができる.長期の抗生剤投与後に手術適応となった肺感染症患者の術後肺炎は,原因菌の特定が容易ではない.多剤耐性である可能性もあり,抗生剤や抗真菌剤の選択には注意を要する.
  • 宮内 善広, 国光 多望, 松岡 弘泰, 大貫 雄一郎, 椙村 彩, 松原 寛知
    2015 年 29 巻 5 号 p. 657-661
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    【症例】60歳代女性.検診の胸部レントゲンで異常陰影を指摘され,精査にて左肺下葉S8原発の腺癌(c-T2aN1M0)と診断され手術目的に当科紹介となった.術中所見で転移のある葉間リンパ節が上大区支と舌区支の分岐部近傍の気管支壁まで節外浸潤しており剥離不能であった.上大区と舌区の気管支分岐部まで切除すれば肉眼的完全切除可能と判断し,左肺管状下葉切除とした.再建は,まず離断されたそれぞれの区域気管支を,切離端同士を寄せるように約1/3周にわたり縫合した.次に頭尾側に大きく展開するように口径差を調整し,二連銃型気管支形成を施行し上葉を温存した.【考察】末梢の気道再建では,中枢と比較して再建気管支径が細い.そのため急性期/遠隔期の気道狭窄を防止するため,温存肺に向かう肺動脈血流の確実な確認と急性期に喀痰喀出を困難とする可能性のある気道内結紮を避けることが重要である.
  • 久米田 浩孝, 江口 隆, 吾妻 寛之, 砥石 政幸, 椎名 隆之, 吉田 和夫
    2015 年 29 巻 5 号 p. 662-666
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.2013年2月,胆石症の精査中に右肺尖部に5 cm大の腫瘤を指摘され,肺癌が疑われたが気管支鏡検査では悪性所見は認めなかった.4月に行ったFDG-PETにて右肺尖腫瘤に強いFDG集積を認め,同時に肝臓にも強いFDG集積を伴う多発腫瘤を認めた.その直後,熱発,炎症反応・肝酵素上昇を認め,肝膿瘍の診断で抗生剤が投与され肝腫瘤影は消失した.右肺尖部腫瘤は4月のCTで3 cm大に縮小したが,8月には4 cm大に再増大した.気管支鏡検査を繰り返し,悪性所見を認め,9月に右肺上葉切除術を施行した.病理診断は低分化扁平上皮癌だった.本例では肝膿瘍の発症と同時期に肺癌が一時的に縮小し,発見から手術までに時間を要した.自然退縮の機序に肝膿瘍に伴う免疫の賦活化が関与したかは不明であるが,肺癌の自然退縮は比較的稀であり肺腫瘤が縮小した場合には慎重な対応が求められる.
  • 大岩 宏聡, 朝井 克之, 望月 孝裕, 籾木 茂
    2015 年 29 巻 5 号 p. 667-672
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    肺静脈断端血栓は,左上肺静脈切離断端に生じ,長い残存肺静脈が原因の1つとされている.今回,左上肺静脈を胸腔内で意識的に短く切離したにも関わらず,遠隔期に左上肺静脈断端血栓を生じた1例を経験したので報告する.症例は69歳男性.検診胸部異常陰影で発見された左肺上葉扁平上皮癌に対し,左肺上葉切除術及び縦隔リンパ節郭清を施行した(pT3N0M0-IIB, pm1).肺静脈断端血栓予防のため,左上肺静脈は左胸腔内でできるだけ短く切離した.術後補助化学療法(CDDP+GEM)を3コ―ス行った.術後7ヵ月の造影CTで左上肺静脈断端に12 mm大の陰影欠損を認め,肺静脈断端血栓症と診断した.抗凝固療法を行い,3ヵ月後の造影CTで血栓の消失を認めた.肺静脈断端血栓は,肺静脈を胸腔内で短く切離するだけでは予防できないと思われる.
  • 佐々木 高信, 古堅 智則, 照屋 孝夫, 國吉 幸男
    2015 年 29 巻 5 号 p. 673-676
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/29
    ジャーナル フリー
    先天性食道気管支瘻の1手術例を経験したので報告する.症例は50歳,女性.喀血を主訴に前医を受診した.胸部CTで右S6を中心とした浸潤影と気管支拡張所見を認め,精査にて食道気管支瘻の診断となった.当科紹介となり,手術を施行した.繰り返す肺炎のためか肺動脈周囲の炎症は強かったが,瘻管周囲の炎症は軽度であった.瘻管は食道憩室を含め自動縫合器で切除し,右下葉切除を行った.気管支及び瘻管の断端は肋間筋弁で被覆した.病理所見では瘻管内に粘膜筋板及び重層扁平上皮を認め,円柱上皮への移行像も確認された.
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