抄録
患者は84歳,男性.右肺上葉切除の既往があった.右胸腔内に増大する腫瘤影を認め,精査の後に経過観察していた.腫瘤は横隔膜を穿破して後腹膜腔に増大し,ドレナージにより血腫と診断した.一旦は保存的治療で改善したが,再度増大し,胸腔・後腹膜腔の血腫と被膜の切除,胸郭形成,大網・肋間筋弁充填を行った.術後の経過は概ね良好であった.9ヵ月後に血腫が皮下に再燃し,ドレナージと癒着療法により加療し,再発なく経過した.胸腔内のchronic expanding hematomaが胸腔外へ進展した例は少なく,特に後腹膜腔への進展は稀である.自験例は横隔膜を穿破して拡大し,後腹膜腔に新たな血液貯留部を形成しており,同様の報告はみられない.加えて,自験例ではわずかな被膜の残存から血腫の再発を認め,これに対して保存的加療を行った.以上より,血腫の進展機序,再発とその治療に関して示唆に富む1例と考えられた.