2018 年 32 巻 5 号 p. 587-593
症例は64歳女性.呼吸困難を主訴に近医を受診し,胸部異常陰影を指摘され当科紹介となった.3D-CT血管造影にて下行大動脈より起始した異常動脈が,壁の石灰化と血栓化を伴い約28 mm大に瘤化し左肺底区に流入し,肺野の血管拡張と透過性低下を認めた.肺動脈の底区への分枝は欠損し,下肺静脈と気管支の走行は正常で,左肺底動脈下行大動脈起始症と診断した.異常動脈瘤切離時の出血の危険回避のため,まず下行大動脈ステントグラフト内挿術を行い,二期的に左肺下葉切除+異常動脈切離を施行した.ステントグラフトは大動脈瘤に対する新しい治療法であるが,今回左肺底動脈下行大動脈起始症の異常動脈瘤に対し,ステントグラフトを用いて瘤への血流を遮断することで,安全に異常動脈の切離処理,肺切除が可能であり,非常に有用であった.本疾患に対するステントグラフト使用例の報告は本症例を含め2例のみであり,貴重な症例と考えられた.