1997 年 11 巻 6 号 p. 765-768
患者は57歳, 男性.7年前から胸部X線写真で右肺嚢胞を指摘されていた.血痰を認めるようになり当院内科受診.CT上嚢胞内に出血を認め, 血痰も改善しないため嚢胞切除術を行った.切除標本で, 約1mm嚢胞内腔側に隆起した直径2cmおよび1cmの2つの病変を認め, いずれも大細胞癌との診断を得た.一方の腫瘍には, 出血像が認められ, この部分が嚢胞内出血の原因になったと考えられた.またもう一方は前述の腫瘍が嚢胞対側壁に播種したものと推測された。気腫性肺嚢胞症に肺癌が合併しやすいことは以前から指摘されているが, 自験例のように嚢胞内腔に発生した肺癌が嚢胞内に出血した報告は他に1例のみで, 今回のよう微小な癌によるものは初めてである.さらにブラ合併肺癌が嚢胞内播種を引き起こした報告もこれまでなく, 自験例はきわめて珍しい症例と考えられた.また, 肺嚢胞を切除した際には, 癌の合併がないか標本を入念に病理検索することが重要である.