1994 年 8 巻 1 号 p. 12-18
1985年12月から1992年1月までに当教室で手術を施行した原発性肺癌症例264例のうち32例に以下の理由で術前に虚血性心疾患に対する検査を施行した.胸痛のあった例が8例, 心電図上陳旧性心筋梗塞が疑われた例が8例, その他の心電図異常が6例, 高齢のため精査として行ったのが11例あった.32例中, Treadmill testを12例に, Ergometer法を1例にTL負荷心筋シンチグラムを12例に行った.これらの検査でさらに虚血性心疾患の合併を強く疑ったら15例には冠状動脈造影を施行し, そのうち9例に有意狭窄を認めた.有意狭窄例のうち術前にIABPを挿入して手術を施行したものが2例, 術前にPTCAを施行したものが1例あり, 1例では心肺同時手術を行った.5例には薬剤によるコントロール下で手術を行い, 特に問題はなかった.
以上のことからIHD合併肺癌でも冠状動脈の狭窄が軽度であれば薬剤によるコントロールのみで手術を行うことが可能であるが, 冠血行再建術の成績が安定している現在は, 冠状動脈の評価を積極的に行い, 冠血行再建術を先行してから肺癌手術を行うべきであり, 可能であればリンパ節郭清を含めた心肺同時手術も試みられてよい術式と思われた.