内部質保証の実質化が叫ばれて久しい今日でもなお,組織的な質保証への取り組みが個々の教員の授業とどのように関連づいているのかはほとんど明らかになっていない.本稿の目的は,質保証改革が進む医学部を事例に,大学で組織的に行われる質保証への取り組みが,どのように個々の教員の授業と結びついているのかを,教員の視点から明らかにすることである.
本稿は,B大学医学部で医療コミュニケーションに関する授業を担当する教員のインタビューと参与観察を実施し,以下の知見を得た.第1に,教員の授業に対する関心は,B大学の質保証への取り組みとは異なる文脈で形成されており,それゆえ,教員は質保証の取り組みを批判的に評価することがあった.その一方で,第2に,教員は自身の教育的関心を起点に組織の質保証の取り組みを再解釈し,積極的に授業に活用してもいた.
これらの知見は,組織のルールに教員を合わせるだけでなく,教員の教育的関心とそれを起点とした再解釈によって,組織における質保証の取り組みと個々の教員の授業とを関連付ける方途の可能性を示唆している.