本研究の目的は,多面的・総合的評価への転換という政策主導の課題に取り組もうとする大学が,多面的・総合的評価を解釈し実践しようとするにあたり,どのようなアクターがどのように関わり合うことによって,入試制度を構築したのかのプロセスを把握することである.そのため,国立Z大学が保有する文献資料調査ならびに教職員へのインタビュー調査によって得られたデータを,組織学習における4Iフレームワークを用いて分析した.その結果,制度化に至った要因として,具体的な入試制度の提示,当該入試制度を導入することに対する学内での共通理解の構築の2点を提示した.さらに,制度の具体化と理念の共通理解に至るための要素として,メンバー間の情報共有による知識の移転,メンバーが行使する影響力のコラボレーション,学内外の状況を踏まえたタイミングの3点が示唆された.本研究から得られた知見は1事例に基づくものであるが,何があったかという事象の記述だけでなく,なぜそうなったかを分析的な視点で捉えたことにより,組織変革のメカニズムを把握することを可能にした.