抄録
本論文は、イタリアにおける美術作品の修復学とそのドキュメンテーションをめぐる諸問題についての一考察である。筆者は、イタリア修復学におけるドキュメンテーション史の起源として、作品情報に加えその修復記録を記したマルカントニオ・ミキエル著『美術品消息』を挙げ、考察を試みる。また、介入にまつわる情報を「秘匿」とする伝統的な修復学の傾向に異を唱えたピエトロ・エドワーズや、「ひらかれた情報」としての修復技法を指南した19世紀の修復士たちの試みに着目しつつ、イタリア近現代の修復学が切り開いた、新たなドキュメンテーションの在り方[修復=ドキュメンテーション=メッセージ]を、昨今の修復介入例から明らかにする。