南海トラフ地震は,東日本大震災を大きく上回る被害が想定され,国として防災対策が急がれている巨大地震である. 2017年に気象庁は, 南海トラフ地震発生の可能性が相対的に高まっていると判断した場合,「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)(以下,臨時情報)」を発表することとした.しかしこれは「不確実な予測情報」であり,情報が発表されたからといって,必ずしも巨大地震が発生するとは限らない.このような曖昧な情報の持つ意味が十分に理解されないまま社会に伝わると,大きな社会的混乱が引き起こされる可能性がある.特に国民の主要な情報源の一つである放送や新聞などのメディアがこの情報をどのように報道するかによって,社会にさまざまな影響が出ると考えられる.本研究では,南海トラフ地震の震源域の西半分で巨大地震が発生する,いわゆる「西半割れ」を受けて,気象庁が臨時情報を発表するシナリオを作成した.このシナリオを材料として,地域メディアの関係者と地震の専門家によるワークショップを実施し,臨時情報を報道する上で検討が必要な論点を掘り起こすことを試みた.使用したシナリオは,一般に公開されている資料を使って作成された簡易なもので,ワークショップも短時間のものであったにも関わらず,シナリオで示した状況下で「もし仮にこのような報道をしたら,どのようなことが起きうるか」という問いかけを参加者の間で繰り返す過程の中から,検討すべきいくつかの論点を見つけ出すことができた.