経済地理学年報
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デュルケムの社会空間論 : その意義と限界
島津 俊之
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1995 年 41 巻 1 号 p. 20-36

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抄録

本稿は, デュルケムの社会空間論を発掘し, その意義と限界を明らかにすることを通じて, <社会-空間理論>構築への足がかりを得ようとするものである. これは, 彼の地理学的想像力を再評価する試みでもある. デュルケムにおける社会空間論の起点は, 1893年刊行の『社会分業論』の時点で形成されていた. 彼のいう社会空間は, 一貫して<社会が占める地理空間〉>を意味する概念であり, ラッツェルの刺激によって考案されたとも考えられる. デュルケムの社会存在論のなかで, 社会空間は社会集団とともに<基体=社会の身体>と位置づけられ, <社会の精神>たる社会生命に対峙することになる. 社会空間は, 社会生命が空間に下ろした<足場>ともなる. 一方で, 未開社会を対象に<知識社会学>を展開したデュルケムは, 社会空間が分類体系や空間カテゴリーのモデルになったと推論する. 社会空間は, ある種の社会生命の生成に際して, それに<かたち>を与える媒介変数の地位を与えられたのである. デュルケムの社会空間論は, 様々の限界や矛盾を孕む一方で, 豊かな地理学的想像力の見木を提供するものでもある. それは, 社会空間を社会の不可欠な要素と認識し, その役割を積極的に評価しようとするものであった.

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© 1995 経済地理学会
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