経済地理学年報
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量販チェーンにおける情報化と物流システムの変容 : 信州ジャスコを事例として
箸本 健二
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1998 年 44 巻 3 号 p. 187-207

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抄録

本研究では, 情報化を通じた物流集約化を進めている量販チェーンを対象として, 集約化に伴う物流システム全体の空間的変容を分析した. 信州ジャスコを対象企業として, その情報システムならびに配送システムを検討した結果, 取引情報の流れは, 商品の配送経路を遡上する従来のものとは異なり, 情報拠点をアウトソーシングし, 店舗, 情報拠点, 卸, 配送センターの間を専用回線でつないで情報交換を行う形態に変化している. また, 物流および商流の拠点も, それぞれ異なる立地への指向を強めている. 物流拠点は, 各拠点が担当する配送範囲の広域化につれて, すべての店舗に対して無理のない配送計画を立案するために, 最も遠い配送先店舗群に対する時間距離がほぼ均等となる地点への立地指向を強めている. 一方, 卸の商流拠点は, 取引先の量販チェーンにおけるバイヤーの勤務地に近接して立地する. これは, 卸の商流拠点がバイヤーとの対面接触に有利な立地を目指すためである. さらに, 物流集約化のコスト効果を店舗の利益率に換算した場合, 平均で約1.5〜2%の純利益率の向上に相当することが明らかにされた. 対象企業における現在の税引後純利益率が約1%弱であることから, 合理化がもたらす戦略的意味は極めて大きいと評価できる. しかし, 集約化に伴う卸の上位集中化は, 中小卸の衰退, 量販チェーンを軸とした流通機構の垂直的統合の進展, 周辺部における雇用の減少など, 地域卸に与える影響も少なくない.

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© 1998 経済地理学会
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