経済地理学年報
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企業住宅政策と施策住宅の展開 : 住友金属工業和歌山製鉄所を例に
長谷川 達也
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1999 年 45 巻 2 号 p. 100-119

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抄録

企業の住宅政策は, 住戸の戸数充足から持家化に至る戦後のわが国の公的住宅政策のなかで, これを補完するものとしての機能を果たしてきた.とくに都市構造に大きな影響力を有する大企業の場合, 企業の住宅政策は, 住宅供給や住宅地形成に重要な役割を果たしてきたといえる.本稿の目的は, いかにして企業による住宅政策が展開し, 給与住宅や持家といった施策住宅が配置, 形成されてきたかを明らかにすることである.事例としては大手鉄鋼企業の住友金属および住友金属和歌山製鉄所を選定した.住友金属の住宅政策は, 1950年の住宅融資制度から積極的に持家取得を促進させるための制度が整備され, 最終的に寮・社宅を経て持家へと至るライフプランの中で「住宅総合対策」として確立された.また, 住友金属の住宅政策は, 大手鉄鋼各社との比較分析から, 持家化を指向していることが明らかとなった.和歌山製鉄所における施策住宅は, 製鉄所完成時の社宅や寮の整備にはじまり, 高炉建設に伴う要因対策として持家の分譲が本格化した.その結果, 製鉄所周辺及び郊外に多数の給与住宅や持家住宅団地が建設された.また, 事業所レベルにおいて, 住宅政策を受け持つ子会社である企業内デベロッパーが, 従業員への住宅供給, 転勤者の住宅対策や, 住宅施設の合理化などの実務を担当し, 近年その役割を増大させている.さらに, 労働組合も企業住宅政策に対し大きな影響力を有している.

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© 1999 経済地理学会
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