1999 年 45 巻 2 号 p. 120-139
近年の欧米の産業地理学は, 社会・経済学のフロンティアの影響を受け, 新しい展開をみせている.近年の欧米における産業地理学の特徴は, 制度や慣習など社会・文化的要素を重視し, 産業のグローバル化とローカルな産業集積の意義をとらえてゆく点にある.本稿では, そうした近年の産業地理学の動向と, その背景となっている新制度派経済学や進化経済学, 経済社会学など社会・経済学のフロンティアを整理した.それを踏まえ, 日本の産業地理学の新しい議論に有効と思われる四つの視点を提示した.それは, (1)国ごとや地域ごとの制度や慣習の多様性への視点, (2)経済活動を不可逆的な時間の中で動態的にとらえる「進化」の視点, (3)ローカルな産業集積の重要性を, グローバル化という文脈の中で考察するという視点, (4)グローバル/ナショナル/ローカルという, 空間的スケールの「入れ子構造」の認識とそれらの相互関係への視点, である.