経済地理学年報
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グローバル経済下におけるアメリカ合衆国ワシントン州のりんご産業の地域的変動(<特集> 環境問題の多元化と経済地理学 : 循環型社会の形成にむけて)
高柳 長直
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2001 年 47 巻 4 号 p. 40-55

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抄録

農業分野においても貿易の自由化が進められ, グローバル経済化が進行している.本稿では, アメリカ合衆国内で生産が集中化するとともに生産者の階層分化が進展しつつあるワシントン州のりんご生産地域の変化要因を, グローバル経済化の文脈の中で考察することを目的とした.1970年代まで, 米国国内のりんごの消費は伸び悩んでおり, 価格も低迷していた.そこで, 1980年代後半からワシントン州のりんご産業は急速に輸出志向を強めた.こうした過程のなかで, もともと技術的蓄積があり, 比較的大規模な生産が行われていたワシントン州は, 他の生産地域に比べて次の有利な条件を持っていた.海外輸出は, 輸出国の景気変動による影響や消費者の嗜好性の相違など, 国内市場に比べると, 生産者や流通業者のリスクが大きい.また, 非関税障壁の存在も, 輸出型生産地域の形成に大きな影響を与えている.果樹品目の輸入が解禁されても, 植物防疫上の見地から, 品種や生産地域が限定されたり, 輸入国が検疫上の検査を義務づけ, その確認費用を輸出国側に求めることがある.そのような場合, 小規模産地ではその費用負担が重く, 輸出プログラムに参加することは困難になる.一方, りんごを生産している国への大量輸出は, 相手国との摩擦を生じさせる.これらの要因により, 小規模生産者が淘汰され, あるいは小規模生産地域が輸出志向性から締め出され, 大規模産地や大規模生産者がますます有利となった.

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© 2001 経済地理学会
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