経済地理学年報
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論説
空間構造の多様性に関するクリスタラー中心地論・三原理の再評価について
田端 幸朋
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2016 年 62 巻 1 号 p. 1-18

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抄録

    クリスタラー中心地論は市場原理,交通原理,行政原理という三つの原理が交差した,経済領域と非経済領域の関係性によって多様な空間構造が規定されるとするいわば社会経済統合的な空間理論である.
    しかし,中心地論は当時の限界効用学派と歴史学派の折衷的な接合という論理的方法と,ドイツにおける労働者階級の社会的位置づけやワイマール社会国家の歴史的過渡性に影響され,その論理的,歴史的限定性を明確にしていない.結果,資本主義経済における空間構造の多様性について説明する論理としてはその役割を果たし得ていない.
    しかし,中心地論に内在する論理的,歴史的過渡性を排することで,クリスタラーに混在した三原理の関係性=相関に関する視点も,資本主義経済の確立過程における,政治,経済,社会という社会経済全般にわたる機能の分離から市場原理の優位性と偏倚という関係を経て,資本主義経済の発展段階における国家の社会化に基づく新たな行政原理の介在と生活圏の媒介による三原理の相互依存的な補完関係への変化という歴史段階に即して整理される.
    三原理の相関は歴史過程において変化する極めて歴史的な概念であり,一元的な経済空間ではなく,多様性をもった空間構造を導出するための端緒となる論理である.

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© 2016 経済地理学会
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