経済地理学年報
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研究ノート
産業集積における同業組合の役割
―明治・大正期における羽二重産地の比較研究―
小木田 敏彦
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2017 年 63 巻 2 号 p. 136-147

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抄録

    同業組合制度は農村織物業における特色のある産地形成に大きな役割を果たした.同業組合には上からの統制機構という側面と同時に,産地による粗製濫造への主体的対応という側面もあった.後者の側面は行政の監督を受けない任意の組合に明瞭である.そこで,本稿では戦前期の羽二重産業を例に,同業組合が産業集積を円滑に機能させるためには産地による主体的対応が不可欠の条件であったことを明らかにした.
    羽二重の等級検査は練絹取引により有効に機能する.福井県では任意の組合による自主流通運動の過程で練絹取引が普及し,同業組合による等級検査が有効に機能した.石川県では改組に際して検査事業が同業組合から県に移管になった.市場のインセンティヴを歪めることがなかったため,この市場介入は功を奏した.しかし,粗製濫造への主体的対応の側面が弱体化する結果を招き,同業組合は円滑に機能しなかった.
    福島県も練絹取引による等級検査制度の円滑化を目指した.しかし,副業農家にとって練絹取引は不利益であった.次善の策として福島県は生絹の県外搬出を禁止した.市場のインセンティヴを歪めることがなかったため,この市場介入も功を奏した.その後,力織機工場経営者が任意の組合を結成し,直営の横浜販売店を通じて練絹取引を実施した.そして,羽二重市を副業農家に開放し,生絹取引の継続を容認した.

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© 2017 経済地理学会
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