経済地理学年報
Online ISSN : 2424-1636
Print ISSN : 0004-5683
ISSN-L : 0004-5683
特集論文
東京五輪・パラリンピックに向けた新たなセキュリティ対策の展開と公共空間の変容
杉山 和明
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 66 巻 1 号 p. 112-135

詳細
抄録

    東京五輪・パラリンピック(東京2020大会) の開催が決定してから,「安全・安心」に関する新たな対策が展開されるようになっている.本研究では,公文書,各種機関・団体・企業の報道資料,新聞・雑誌記事などを用いて,これらの新たな対策を概観しその特徴を明らかにするとともに,高度なセキュリティ対策の進展にともなって生じる問題点を指摘する.
    日本では2000年代以降,「安全・安心」に関する地域の取組のなかでハード面とソフト面がそれぞれ強調されてきた.ソフト面では,警察・関係団体の市民等への歩み寄りと市民等の自主的な参加が強調され,両者の協働が進んでいった.ハード面では,監視カメラの活用のように防犯環境設計に基づいた取組も展開されてきた.東京2020大会の開催決定後,それらの延長線上で,「安全・安心」に関する対策が加速している.これらの対策のなかでも公共空間における監視カメラを用いた防犯対策が著しい進展をみせている.鉄道各社による車両内への監視カメラの設置が進んでおり,2020年には首都圏の主要路線を走るすべての車両に監視カメラが導入されることになる.加えて,技術革新を背景として「カメラシステムの高度化」 が図られ,最先端の群衆行動監視技術を用いた予測警備も検討されるようになっている.
    こうした複合的な「安全・安心」に関する対策は治安維持の方策として効果的であると多くの市民が考えており,東京2020大会が近づくにつれてより高度な監視・管理技術が採用されていくことが予想される.とりわけ,公共空間におけるAI・IoTを用いた行動分析,予測警備を導入した「安全」対策は,運用の仕方によっては監視・管理の極大化につながり,一転して市民的自由を窒息させかえって市民の「安心」を奪うリスクを秘めている.

著者関連情報
© 2020 経済地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top