2010 年 30 巻 3 号 p. 481-485
外傷による出血性ショックが原因となる非閉塞性腸管壊死はまれである。腹部鈍的外傷による出血性ショックが原因と考えられた非閉塞性腸管壊死症例を経験したので報告する。症例は69歳の女性。軽乗用車の助手席に乗車中に車が壁に衝突して受傷し,当院に救急搬送された。右腎損傷と下大静脈の損傷による出血性ショックのため,緊急手術を行い右腎摘出と下大静脈の修復を行った。術中に重篤なショックとなり出血コントロールのために腹部大動脈の用手遮断を行った。腸管・腸間膜に損傷は認めなかった。術後に腰椎骨折部の出血に対して動脈塞栓術を施行し,全身状態は安定した。第9病日腹部のドレーンから腸内溶液が流出したため再開腹術を行った。回腸末端部に穿孔を認め,粘膜の壊死していた回腸から上行結腸を切除し吻合した。病理所見では血管閉塞のない虚血性腸管壊死の所見だった。外傷による出血性ショックが原因で腸管の虚血壊死を起こしたと思われた。