2011 年 31 巻 7 号 p. 979-985
過去9年間に当科で経験した消化管出血(GIB)に対する緊急手術施行例9例を,上部GIB(上部)群4例と下部GIB(下部)群5例の2群に分類し,患者背景・術前重症度・手術関連事項・術後経過と転帰・出血源の特定に苦慮した例の詳細,についてretrospectiveに調査・検討した。その結果,患者背景と術前重症度は両群同等であったが,出血発症から手術開始までの所要時間は下部群で有意に長く,術中出血量は上部群で有意に多かった。上部群では全例で術前に出血部位を確実に同定し得たが,下部群中の2例(Crohn病の回腸出血・上行結腸憩室出血)では出血源の特定に至り得ぬまま緊急手術に移行していた。術後経過は両群同等で,全例が生存退院した。下部GIBに対しては各種診断技術を駆使して可及的速やかな出血部位の同定に努めることが,上部GIBに対しては充分量の術中輸血を準備することが肝要であると思われた。