抄録
要旨:症例は79歳男性。腹部食道癌で1年前に右開胸および腹腔鏡補助下食道中下部切除,後縦隔経路で胃管再建術が施行された。腹痛で近医を受診。精査目的で施行された下部消化管内視鏡検査後,呼吸困難,血圧低下を認め当院に搬送された。胸部X線,胸腹部CT検査で食道裂孔ヘルニアによるイレウスと診断し,緊急手術を施行した。食道裂孔を通して挙上された胃管の左腹側より左胸腔内に空・回腸と横行結腸が脱出し,腸間膜の捻転で回腸末端は壊死に陥っていた。食道裂孔の開大部を縫合閉鎖し,回腸部切除術を行った。全身状態は徐々に改善し術後42日目に転院となった。本症の原因として食道裂孔部の横隔膜が脆弱なために,腹圧の上昇により初回手術時に縫縮した食道裂孔の離開が生じたと考えられたが,患者の栄養状態が不良で腸間膜の脂肪が少なく腸管の可動性が良好であったため腸管が胸腔内へ脱出しやすかったことも原因の一つとして考えられた。