抄録
要旨:症例は82歳,男性。前立腺癌に対し前立腺全摘術を受け,酢酸リュープロレリン(リュープリン®)を投与中であった。腹痛と嘔吐を主訴に救急外来を受診した。造影CT検査では腹水貯留,小腸腸管壁の造影不良を認めたため,腸管壊死を疑い,緊急手術を施行した。Treitz靱帯より約20cmの部位から約30cmにわたって,暗赤色に変化した空腸を認めた。同領域の腸間膜内の動脈拍動は触知できたため,うっ血性の腸管壊死を疑い病変部を含めた空腸を切除した。術後は抗凝固療法を行い,経過良好にて退院した。病理組織学的検査では腸間膜血管内に多発する陳旧性の血栓を認め,腸間膜静脈血栓症による腸管壊死と診断した。本症例では血液凝固線溶異常は認めず,酢酸リュープロレリンを外来にて投与されていたため,薬剤性が最も疑わしいと考えられた。酢酸リュープロレリンによる血栓症の報告はまれであり,文献的考察を加えて報告する。